アルコール依存症の夫らから暴力などを受ける家族を支える「断酒会家族会」が全国各地にあり、奈良市では「さくら会」(山崎千里会長)などが活動している。家族らが抱えている悩みや体験などを素直に語れる場を設け、前向きな気持ちになれるよう支援している。
「しらふでは優しい夫が、お酒が入ると怒鳴ったり、手を上げたりすることもある。感情がまひして、気づけば笑えなくなった」。7月中旬の夜、奈良市内の会議室で夫のアルコール依存症に悩む女性が涙を流しながらつらい体験を語り、参加者らは温かい表情で真剣に話を聞いていた。
さくら会が毎週1度開く「体験のわかちあい」の場だ。数分後、女性は「話せて楽になった」とすっきりした表情だった。さくら会は、依存症の本人や家族ら16人(8月9日時点)が会員だ。
アルコール依存症は、摂取する量や頻度などを自ら管理できなくなる精神疾患の一つ。多量の摂取により心身に深刻な健康障害を引き起こし、飲酒運転や暴力など反社会的な行動につながることもある。
厚生労働省の「アルコール健康障害対策推進基本計画」(2021年3月)によると、アルコール依存症の患者は17年時点で推計4万6000人。だが、症状が疑われる人の中で「専門治療を受けたことがある」と回答したのは22%にとどまることから、潜在人数は20万人を超えるとみられる。山崎会長は「依存症の専門医の分析によると、2019年以降、新型コロナウイルス禍の外出制限などの影響で依存症になる人が増えている」とも指摘し警戒する。
アルコール依存症は当事者だけの問題に見られがちだが、周囲の家族らの苦労や負担もかなり大きい。自分の責任と思い込んだり、相談する人がいないことなどで悩みが蓄積され、社会から孤立したり、うつ病を発症したりする人も多い。
また、アルコール依存症の人と暮らす家族らはDV(ドメスティックバイオレンス)などを受けても、それが当たり前と思う傾向が強く、周囲の人から指摘されてようやく違和感を持つようになるケースも多いという。
山崎会長もその一人で、偶然知ったさくら会に参加するようになって笑顔を取り戻した。「自分の悩みを聞いてもらえただけで救われた。大粒の涙を流しながら話したら気持ちがすっきりした」と振り返る。
さくら会では「人が話す内容を否定しない」や「話したことを他人に漏らさない」などのルールを設け、信頼し合える関係を築くことで参加者が素直な気持ちを話せる場になっている。山崎会長は「同じ境遇の人はかなりいるはずで、一人でも多くの人を救いたい。気軽に足を運んでほしい」と呼び掛けている。
1日研修会も募集
さくら会の活動を会員でなくても体験できる1日研修会が9月8日午前10時~午後3時半、奈良市杉ケ町の市生涯学習センター3階学習室である。毎年1回開催しており、例年、多くの当事者の家族が初めて顔を出すほか、行政や医療関係者も参加している。申し込みの締め切りは30日。
会員や参加者が順に悩みや体験を話す「わかちあいの場」や、アルコール依存症専門医院の相談員が「家族として何ができるか」のテーマで話す講演がある。入場無料。定員は先着69人。申し込みはメールで同会事務局(eiko.fu.3834@gmail.com)。【山口起儀】
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