南海トラフ巨大地震といった災害後に被災者が必要とする生活用水を確保しようと、徳島県が市町村での民間井戸登録制度の後押しに乗り出す。災害に伴う断水時には、被災者の飲料水以外に、トイレや洗濯などで大量の水が必要で、比較的確保が容易な地下水を活用するのが狙い。都道府県として登録制度を設けるよう市町村に働きかけるのは珍しい。
徳島県は6月、一般会計補正予算に防災井戸登録推進事業を含む南海トラフ巨大地震等対策事業費として2600万円を計上した。市町村が民間井戸を登録する場合、水質検査を実施したり、断水時に使える井戸の存在を知らせるプレートを作成・配布したりしているほか、登録した井戸の位置などの情報を自治体のホームページで公表している例もある。こうした施策に必要な事務費の半分、1市町村当たり最高100万円までを県が支援する仕組みだ。
今年の元日に発生した能登半島地震では、水道施設の被害が大きく、断水期間が長引いた地区も多かった。被災者が必要とする飲み水などは、給水車の出動や備蓄分の配布、支援のペットボトル水で賄われたが、被災生活が長引いたため、トイレ用や洗濯用といった生活用水が必要となり、河川から取水したり、新たに井戸を掘削したりした例もあったという。生活用水は飲料水ほどの衛生レベルは必要ないが、大量に確保する必要があり、被災地の井戸を活用できれば、輸送の手間も抑えることが可能だ。
徳島県によると、県内で2021~23年度に水質検査を受けた井戸は約1800あった。一方、県内で防災登録井戸制度を持つ阿波市など4市町で登録されている民間井戸は約230カ所あるといい、市町村が制度を設ければ、名乗りを上げる民間井戸は少なくないと考えている。
阿波市阿波町平川原南で屋根工事などを手がける「西渕スレート工業所」は数年前、市の呼びかけに応じ、敷地内にあった井戸数カ所を登録した。かつては農業用などに活用していたが近年は使っていなかった。災害時にはバケツなどでくみ上げられるよう開放する考えだが、転落といった危険に加え、災害時には停電で電動ポンプが使えなくなる恐れもあることから、道路端の1カ所については、手押し式のくみ上げポンプを購入し設置した。同社の西渕正和代表取締役は「災害時の断水で困った際は、ご近所の人に使ってもらえれば」と語った。
県安全衛生課の担当者は「発災直後、まず飲料水の確保が重要なのは間違いないが、被災生活が長期化すると生活様式も変化し、生活用水が必要になる。県内では4市町に制度があるが、県事業により、他の21市町村にも民間井戸登録制度を広げたい」と話している。【植松晃一】
広がる「災害応急用井戸」制度
災害時を想定した民間井戸の登録制度は、阪神大震災を経験した神戸市や京都市にもあるが、四国でも高知市や愛媛県宇和島市、徳島県阿波市などが導入している。
このうち、宇和島市の「災害応急用井戸」制度は2013年度にスタートした。そして、18年7月の「西日本豪雨災害」では、市内の吉田地区(旧吉田町)と三間地区(旧三間町)のほぼ全域が1カ月以上にわたり断水状態となった。その際、一部の井戸水が生活用水として活用されたという。7月1日現在、市には630カ所の井戸が登録され、このうち同意が得られた503カ所については、市のホームページ(HP)で地図上に位置を公開している。
市内にある井戸130カ所を登録している高知市は、公表の同意を得た約50カ所について、井戸の所在地とともに登録者(管理者)の名前、井戸のある地域の自主防災組織の名称も市のHPで公開し、平時からの周知を図っている。
また、徳島県の上板町や阿波市では、市や町のHPで所在地情報に加え、井戸水のくみ上げ方式が電動式か手動式かも公表している。井戸に設置した電動ポンプで水をくみ上げている施設では、災害後の断水時に停電も起きるとくみ上げが難しくなる場合もあり、住民の判断材料となる。
一方、今年4月から制度をスタートさせたのは、香川県東かがわ市だ。7月末時点で48カ所を登録しており、市のHPの地図上で所在地を案内している。
いずれも、登録に際し水質検査を実施している例が多いが、災害時には地層の変化や施設の破損などで水質も変化する可能性がある。そのため、いずれの自治体も飲料水ではなく、トイレで流したり洗濯などで使ったりする「生活用水(雑用水)」として活用するよう呼びかけている。
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