教員の残業代を支払わない根拠となっている教員給与特別措置法(給特法)の改廃を訴える集会(日本労働弁護団主催)が2日、東京都千代田区の連合会館であった。教員の過労死・自殺事案を扱う弁護士や、過労に苦しんだ教員ら10人以上がスピーチし、給特法の枠組みを維持するとした中央教育審議会(中教審)の方策について「諸悪の根源」「マイナス100点以下だ」などと訴えた。ユーチューブでもライブ配信された。
中教審の特別部会は5月、給特法の枠組みを維持した上で、残業代を支払わない代わりに給料に上乗せして支給する「教職調整額」を現行の月額4%から10%以上に引き上げるとした。6月に政府が閣議決定した「骨太の方針」でも同様の方針が盛り込まれた。
給特法のあり方を考える「有志の会」として活動している岐阜県立高校教諭の西村祐二さんは、この方針について「審議まとめは0点以下、大げさに言えばマイナス100点だった」と批判。特に中堅層の教員を想定した「新しい職」について問題視した。
新たなポストは現行の「教諭」と「主幹教諭」の間に創設する想定。在校時間が長くなりがちで休職率の高い若手教員のサポートや、子どもの教育相談や特別支援教育に関する学校内外の連絡・調整役、校内研修、情報教育などの重要な取り組みを担う分、給与は教諭よりも高く想定されている。東京都は2009年から同様のポストとして「主任教諭」を先行導入している。
西村さんは、この制度が導入された後に教諭の基本給が下がってしまった点を指摘。「主任教諭を選べば『無限残業コース』、教諭にとどまれば『昇給頭打ちコース』の2択となるリスクがあり、結果的に教員の裁量が奪われる。しれっと議論が通ってしまったが、これこそ給特法の『魔改造』だ」と批判した。
過労死や過労自殺事案を専門とする松丸正弁護士(大阪弁護士会)はオンラインで講演。自身が半世紀にわたり取り組んできた教員の自殺や突然死などの約30に上る死亡事件を列挙し「長時間労働による死を認定するだけではだめで、その責任が問われないと予防措置は不十分なものにとどまる」と強調した。
また、長時間労働で適応障害を発症したとして大阪府を相手に裁判を起こし、22年に勝訴した府立高校教諭、西本武史さんもオンラインで発表。異例となる実名・顔出しで発信した経緯を振り返った。
「過労死ライン」を上回る残業実態があったにもかかわらず、当時府が「自発的な労働だった」と主張した背景などから、「給特法は諸悪の根源だ」と断じた。
一方、名古屋大の内田良教授は文部科学省のデータから、教員採用の受験者に占める女性の割合が年々下がっていることを指摘。「女性はハラスメントにより敏感に反応し、教員志望を離脱しているというデータもある」と指摘した。【西本紗保美】
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