事故現場にある慰霊碑に献花する松永拓也さん(右)=19日午後、東京都豊島区(岩崎叶汰撮影)

平成31年4月に東京・池袋で高齢ドライバーの車が暴走し、11人が死傷した事故から19日で5年となった。妻の真菜さん=当時(31)と長女の莉子ちゃん=同(3)=を亡くした松永拓也さん(37)は、発生時刻の午後0時23分ごろ、真菜さんの父、上原義教さん(66)とともに、現場近くの慰霊碑に花を供えて手を合わせた。

この日は午前から多くの人が訪れ、献花。松永さんは「今はただ2人を愛していると伝えたい。悲しみをエネルギーに変えて、誰も被害者、加害者にならない社会を作りたい」と話した。

事故は31年4月19日、豊島区東池袋で、旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三受刑者(92)=禁錮5年の実刑確定=の車が暴走。自転車で横断歩道を渡っていた真菜さんと莉子ちゃんをはねて死亡させ、9人が重軽傷を負った。

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桜が開花すると、命日が近づいたことを感じた。前日には電車を降りて職場まで歩く道で、涙がこぼれた。「彼に対する怒りや憎しみは、ゼロではない。ただ、悲しみを力に変えて対話し、交通事故をなくすために共に声を上げたい」。松永さんはこう口にする。

今年3月、遺族の心情を刑務所職員が聞き取って受刑者に伝える「心情等伝達制度」を使い、受刑者に事故や再発防止への思いを伝えた。

受け取った通知書によると、飯塚受刑者は「どうすれば事故を起こさずに済んだか」との質問に「運転しないことが大事です」と回答。時折言葉を詰まらせながら、一問一問に「はい」と返答し、最後に「申し訳ない」と述べたという。松永さんの面会希望にも応じる意思を示した。

刑事、民事の訴訟が終わった今、「初めて本心を聞けた」と感じた。

慰霊碑に手向けられた多くの花を見つめる。

「被害者がたまたま真菜と莉子で、僕たちだった。今を生きる人たちにはこの苦しみを知らないままでいてほしい」

受刑者の言葉、自分自身の経験、2人の命を、事故のない未来のための財産にしたいと願っている。本人の言葉を直接聞くため、面会に向けて調整を進める。

「お父さんは2人がいなくて辛かったけど、頑張って生きたよと伝えたい」。5度目の命日に、静かに手を合わせた。(橋本愛)

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