「音が大きく、遠くまで響くようになりました」とCNFを活用したウクレレを弾く伊藤弘和・愛媛大学准教授=愛媛県四国中央市で2024年7月22日、松倉展人撮影

 植物を原料とする新繊維素材「セルロースナノファイバー(CNF)」を使うと楽器の鳴りが良くなる? 愛媛大学紙産業イノベーションセンターなどがウクレレで研究を重ねた結果、一定の効果が示された。CNFの働きとはどのようなものなのか。

 木材に音響面で高い付加価値をつけることを目指し、同センターの伊藤弘和准教授(複合材料)と愛媛大社会共創学部の学生らは2020年度から企業との共同研究を重ねてきた。

 研究では、サウンドホール(中央の穴)があるウクレレのボディー表板に、シート状のCNFを貼り付けた。この「CNFシート」は厚さ約50マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で、愛媛県四国中央市の産業機械メーカー「川之江重機」、愛媛大などが共同開発した。見た目は透明だが、太さ十数ナノメートル~数十ナノメートル(ナノは10億分の1)の繊維が含まれている。このシートの上から、同大との共同研究先の塗料メーカー「玄々(げんげん)化学工業」(愛知県津島市)が開発したCNFを添加したウレタン樹脂塗料を塗った。さらにその上から、CNFを含まないウレタン塗料を塗って仕上げた。

弦の響きをウクレレのボディーに伝える「サドル」(白い部分)にもCNFの積層シートを活用。軽く、強度が高いことが役立っているという=愛媛県四国中央市で2024年7月22日、松倉展人撮影

 CNFを使わない普通のウクレレとの違いをプロの演奏家に弾き比べてもらった結果、CNFを使ったウクレレは「はっきりと音量が大きくなる」「中高音域の音を遠くまで響かせることができる」などと高い評価を得た。

 木製の楽器は木材の劣化を防ぐために塗装が必要になる。音を鳴らす際、塗料の分子も振動して木材の反響に影響を与えている。伊藤さんは「CNFの働きで木材表面の剛性が高くなり、さらに塗料の分子の振動が抑えられて木材の反響性を高めた」と分析している。それぞれの楽器で使われる木材、塗料の多様性に合わせてCNFを役立てることが伊藤さんらの目標。今後、ギターなどほかの弦楽器への応用を検討していく。

 今回の研究では、ウクレレの弦の響きをボディーに伝えるパーツ「サドル」にも約100枚を積層したCNFシートを使ってみた。サドルは牛骨など硬い部材を使うが、牛骨より剛性が強い上に軽量で、音質も良好に保っているという。「塗膜の強度が高くなるというCNFの特性が生かせる分野はまだまだ多い」。伊藤さんは研究の進展に自信を見せている。【松倉展人】

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