平成の時代に「プリクラ」の愛称で広まり、発売から約30年が過ぎた今も中高生を中心に親しまれるプリントシール機。近年は外国人観光客からも人気だが、夏休みに遊ぶ際は注意も必要だ。利用中にすりや置き引きに遭う被害が福岡市内で相次いで確認されたからだ。事件の現場を歩くと、時代とともに進化するプリントシール機に複数の「死角」があることも見えてきた。
5月13日午後6時ごろ、九州最大の繁華街、福岡市・天神地区にあるゲームセンター。約10台のプリントシール機がずらりと並ぶエリアは、制服姿の女子中高生らでにぎわっていた。海外から「プリクラ」を体験しようと訪れる外国人観光客も少なくない。
最新のプリントシール機は、写真を撮る「撮影ブース」と、写真に文字やスタンプを付けてアレンジできる「落書き」ブースの二つを備える仕様が一般的だ。韓国から旅行で訪れたという女性(27)は撮影を終え、落書きに夢中になっていた。すると突然、背中のリュックに違和感を覚えた。振り向くと、入り口のカーテンの隙間(すきま)から手が伸びていた。
「泥棒」。韓国語でそう叫び、慌ててブースの外へ。フロア内で張り込んでいた福岡県警中央署の私服捜査員たちは、その場から逃走したとされる男性会社員(33)を追跡し、窃盗未遂容疑で現行犯逮捕した。
捜査員が張り込んでいたのには理由がある。同署や博多署によると、2023年12月以降、プリントシール機で遊ぶ間にすりや置き引きに遭う被害が計9件発生しており、警戒を強化していた。
韓国人女性の事件では逮捕された男性会社員が窃盗未遂罪で起訴されたが、余罪の有無は現時点では不明だ。被告は24年7月8日に福岡地裁で開かれた初公判で起訴内容を否認した。一方、検察側は公判で、現場の防犯カメラ映像などを基に当時の状況を説明。被告に特徴がよく似た人物が周囲の目を気にしながらフロア内を歩き回り、プリントシール機のブース内をカーテン越しにのぞく様子も映っていたと明らかにした。
「プリントシールは撮影でポーズをとるため、荷物を置く人が多く、窃盗犯に狙われやすい」。ゲームセンターの運営会社など約160社が加盟する「一般社団法人日本アミューズメント産業協会」の畦田在隆・事務局長(53)は指摘する。
プリントシール機がゲームセンターに登場したのは1995年。ゲームメーカーのアトラスとセガ・エンタープライゼス(当時)が共同開発した「プリント倶楽部(くらぶ)」が「プリクラ」の愛称で広まり、女子中高生らを中心に大流行した。
90年代後半までの機種は、一つのブース内で撮影から画像編集までを楽しむ仕様だった。2000年代に入ると、利用客の回転率を上げるため、撮影用と落書き用の二つのブースを備えた大型機種が次々と登場。多彩な画像加工も楽しめるようになり、人気を集めた。
一方、利用客が落書きブースに移動する際、撮影ブースに荷物を置き忘れて置き引きに遭ったり、落書きに夢中になる間に背負ったリュックから貴重品を盗まれたりする窃盗被害が目立つようになった。各ブースの入り口はカーテンで仕切られているため、その隙間から手を伸ばされると顔を確認しづらいことも窃盗犯に有利に働いているとみられる。
狙われているのは、プリントシール機だけではない。そもそもゲームセンターは多数のゲーム機の音で騒がしい。近年は音楽に合わせて演奏する「音ゲー」の人気も高く、大音量の中でゲームに夢中になると、近付いてくる人の気配に気づきにくい。福岡市城南区のゲームセンターでは、和太鼓をたたいてリズムの正確性を競う人気ゲーム「太鼓の達人」で遊んでいた男子高校生が、近くに置いたリュックから財布を盗まれる事件が発生。福岡県警は今月2日に無職の男性を窃盗容疑で逮捕した。
県警中央署の捜査幹部は「遊戯に夢中になり、警戒が薄れると窃盗犯に狙われやすい。遊ぶ際はバッグを見える位置に置いたり、体の前に持ったりするなどして注意してほしい」と呼びかける。【栗栖由喜】
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