「日本一厳しい」といわれる兵庫県警察学校。過酷な訓練を課し、適性を見極める「教場」のリアル。

日本の治安を守る、一人前の警察官を目指して。

教官:ここやろ!耐えるのは!歯を食いしばれ!

「試練」を乗り越える日々に密着した。

■全員ができるまで…連帯責任の厳しい授業

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今年4月。兵庫県警察学校「教場」に入校したのは233人。

入校生代表:宣誓!公平中正に警察職務の遂行に当たることを固く誓います!

夢への1歩となる、ハレの日。しかし、それは同時に厳しい日々の始まりでもある。

午前6時。教場の朝は夜明けと共にスタート。整列し、点呼から1日が始まる。

教場は、警察官の採用試験に合格した者が通う学校。現場に出て必要な法律知識や、事故や事件への対応を学ぶ。

全寮制で、日中は授業、夜は自習と、スケジュールはみっちり。高卒は10カ月、大卒は6カ月間、警察官としての適性を測ると同時に、ふるいにかける場でもある。

教練教官 辻野祐二警部補:授業開始!

学生:辻野教官に注目!直れ!

警察官としての基本、統率の取れた動きを身に着ける、「教練」の授業。

教練教官 辻野祐二警部補:第1列4歩、第2列2歩前へ、進め!

学生:1、2、3、4!(1歩ずつ数えながら進む)

1歩は60センチと決まっているが…。

教練教官 辻野祐二警部補:4歩進むって分かったら、最初から自己整頓の幅に入れ!ちゃんと指先も伸ばすように!

学生:はい!

教練教官 辻野祐二警部補:服装、ちゃんとアイロンプレス、靴磨き。やってきたか?

学生:はい!

教練教官 辻野祐二警部補:集中せえよ!

学生:はい!

教練教官 辻野祐二警部補:手帳!

すぐさま警察手帳をポケットから出す学生たち。装備品の扱いにも細かい決まりがある。

教練教官 辻野祐二警部補:警棒!伸ばせ!お前、やり直せ!

浦郷恵輔巡査(28歳):はい!

教練教官 辻野祐二警部補:伸ばせ!

教官に厳しく指導されているのが、浦郷(うらごう)恵輔巡査。手順を何度も間違えてしまった。

浦郷恵輔巡査(28歳):はい!申し訳ございません!

教場は連帯責任。全員ができるまで、授業は進まない。

■同級生より10歳上の浦郷さんが「耐える」理由

浦郷さんのクラスメイトは、ほとんどが高校を卒業したばかりの18歳。周りより10歳年上の28歳で入校した。

高校球児だった浦郷さんは、夏の甲子園にも出場。入場行進では、掛け声でチームを引っ張った。

高校卒業後に10年間、会社員をしたのち、警察官の採用試験を受けた。

Q.なぜ警察官になろうと?

浦郷恵輔巡査(28歳):勉強しようかなと思って。ターニングポイントじゃないですけど、変えようかなと思いまして。正直、結構しんどいです。限られた時間の中でやっていくしかないので、耐えるのみですね。

彼が「耐えるのみ」というのは、ある理由があった。

寝食を共にし、集団生活をする警察学校。平日は敷地内の寮で寝泊まりし、土日以外は家に帰ることはできない。

浦郷恵輔巡査(28歳):僕、結婚してて、28歳で子どもが2人いるんですけど。

大切にしているものが…。

浦郷恵輔巡査(28歳):持ってきてくれた、上の子が。絵を描いて、『がんばってね』ってこれだけなんですけど。これは結構、精神的にもだいぶ詰められて、詰められて、怒られた中で、これ渡されて。見た時はちょっと、感極まるものがありました。自分が警察官になるためには10カ月、ここでがんばらないとだめなので。そこは腹くくって。

家族のためにも脱落できない…。そんな緊張感の中、気が休まるのは、仲間との食事の時間。

浦郷恵輔巡査(28歳):俺のやつじゃないやろ。これ変えたやろ。俺好き嫌いせえへんねん!僕がこれ全部食べてたんですよ。全部食べてたんですけど、(彼は)ナスが食べれないんですよ。これ(皿を)すり替えてました。警察官としてあるまじき行為です!

“兄貴分”として、クラスの中心的存在のようだ。

■高低差ビル11階分の急勾配を走る「地獄の走訓練」

教官:駆け足!

教官の声に、学生たちは「よ~し!」という掛け声を上げ、走り出した。

これは、厳しい試練となる「走訓練」だ。

走っていく学生を待ち受けるのは“根性坂”。高低差にしてビル11階分の急な坂道を、ひたすら往復する。その過酷さから、兵庫県警は「日本一厳しい警察学校」といわれている。

一つの部隊として、皆で走りきることが目標。しかし、脱落者が続出した。

地獄の走訓練。「どんな状況でも犯人を逃がさない」、そんな強い気持ちが養われるそう。

教官 別所裕之警部補:追いつけ、お前!合流せえ!

隊列から離れてしまったのは、富田優稀(まさき)巡査、18歳。優等生の富田さんだが、運動が苦手だ。

学生:がんばれ!

富田さん、仲間たちに鼓舞され、何とか隊列に戻った。

教練教官 辻野祐二警部補:逃げてる犯人、声で勝たないとどうするんや!そんなんで勝てるか!今からやぞ!駆け足!

自分の限界を超えること、そして「あきらめない」根性を身に着けるのだ。

寮生活にも、厳しい規律がある。

富田優稀巡査(18歳):教科書類も順番が決まっていて、分厚いのが手前に来るようにしています。靴も並べ方が決まっていて、かかとを揃えるとかも決まっています。

Q.娯楽に使えるものは?

富田優稀巡査(18歳):ないですね。勉強道具がいっぱい入っています。

小学校の頃から、警察官になることが夢だった富田さん。

富田優稀巡査(18歳):(小学校の)卒業式に自分の将来の夢をいう場面があって、『警察官になって市民を守ります』とみんなの前で公表しました。周りの友達は遊んでいたり、髪の毛を染めたりしてて、楽しそうなんですけど。これから自分が現場に出て、一つでも事案がなくなったり、解決してくれたら、仕事をしている甲斐があるなって思います。

■現場では理不尽な事も…「それもここで学んでほしい」

学生たちを見守るのがクラス担任の別所教官。厳しく、時に励ましながら、10カ月間かけて警察官に育て上げる。

教官 別所裕之警部補:みんなは10カ月後、一人前になって出る義務がある。そのために必要な知識・体力をつける義務がある。外に出たら理不尽な事もたくさんあるし、きれい事だけじゃ済まない現場もたくさんあると思うので、ここ(教場)でそれも含めて学んでほしいと思いますね。

教官:盾正面に、右前に!構え!

構えの足を間違えてしまった浦郷さん。

教官:おい!何してるんや、こら!お前もう一回やれ!浦郷のみ。盾、どっちから回しとんや!

浦郷恵輔巡査(28歳):右です!

教官:どっちから回すんや。正しいのはどっちや!

浦郷恵輔巡査(28歳):左です!

教官:分かっててやってるんか!分からんとやってるんか!

浦郷恵輔巡査(28歳):分からないでやっていました!

教官:集中できないのなら出ろ!

浦郷恵輔巡査(28歳):いえ!もう一度行かせてください!

激しい雨が降る中、浦郷さんにひときわ厳しい叱責が飛んでいた。

浦郷恵輔巡査(28歳):何でここにおるんやろうって思う時もたまにあったり。頭ではできているんですけど、行動に移して、完璧にできるっていうのが、できなかったりして。家族もありきでここにいるので、どれだけしんどくても耐えて、『(警察官に)絶対なる』っていう覚悟はちょっとずつ固まってきたかなって思いますね。

おのれの限界を超え、一人前の警察官になれるのか…。険しい道のりはまだまだ続く。

(関西テレビ「newsランナー」2024年7月18日放送)

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