出雲横田駅を出発し備後落合駅に向かう木次線の列車=島根県奥出雲町で2024年7月4日午後1時12分、松原隼斗撮影

 山陰と山陽をつなぐJR木次線が岐路に立っている。JR西日本は利用が特に低迷する一部区間の今後について、関係自治体と協議を進めたい考えだ。人口減や高齢化などに直面する地方は、交通手段の確保でも厳しい現実に直面している。

 「現状の利用状況は非常に厳しいと考えている。最適な交通体系のあり方について議論をさせていただきたいと伝えた」。7月上旬、島根県の奥出雲町役場を訪れたJR西日本山陰支社の金岡裕之支社長は、町との非公開の会合後、報道陣の取材に対して説明した。

 木次線は宍道(松江市)と備後落合(広島県庄原市)の81・9キロを結ぶ。JR西は5月、このうち出雲横田(島根県奥出雲町)-備後落合の29・6キロの今後のあり方について、関係自治体に協議を申し入れる方針を表明。その後、島根、広島両県と広島県庄原市を回り、同町が最後の訪問先だった。会合後、仲佐英哲副町長は「(今後の対応について)関係自治体に相談する」と慎重な言い回しをしたが、「廃止を前提にしたものであれば受けられない」と強調した。

 木次線の歴史は古い。1916年に宍道-木次(島根県雲南市)が開通し、徐々に延伸して37年には現在の区間が完成した。住民の通勤通学に加え、木炭を大量に県外へ出荷するなど経済効果は大きかった。地元の郷土誌には「木次線は山陰・山陽を結ぶ連絡線として画期的便宜をもたらした」と記されている。

1日3往復のみ

 しかし70年ごろになると、マイカーの普及で利用者が激減。利用の低迷は歯止めがかからず、輸送密度(1キロ当たりの1日の平均利用者数)は、87年度の665人から2022年度は171人にまで減った。特に今回議論になっている出雲横田-備後落合はわずか54人。JR西管内では、既に存廃の議論が始まっている芸備線の東城(庄原市)―備後落合に次いで少ない。

島根県奥出雲町との面会に臨む金岡裕之支社長(中央)ら=同町で2024年7月4日午前10時29分、松原隼斗撮影

 利用者の減少に伴って運行本数も減った。現在、出雲横田―備後落合は1日3往復のみで、住民が生活で利用するには不便だ。近くに高校がある出雲横田に向かう備後落合からの始発は午前9時20分発で、通学向けのダイヤにもなっていない。

 同区間にある三井野原は県境の無人駅だ。以前は近くのスキー場がにぎわい、周辺には多くの旅館があったが、スキー客が減ってその面影はない。以前、近くで旅館を営んでいた白川英夫さん(71)は「車がまだ主流じゃなかった時代は、木次線でたくさんスキー客が来ていた」と振り返る。

 線路沿いで第三セクターが運行している路線バスは1日に6往復しており、利便性では鉄道に勝っている。白川さんは「鉄道は便数が少なく便利が悪いから、この辺の人は生活で使っていない。もし自分で車が運転できなくなってもバスに乗るだろう」と話す。

 同区間には、全国的にも珍しい「3段式スイッチバック」があり、車内から中国山地の自然を堪能できる。周辺の自治体はイベントなどを開催して観光での利用を増やそうとしているが、抜本的な解決につながっていないのが現状だ。

 広島県の湯崎英彦知事は5月の記者会見で「(赤字路線を)次々としっぽ切りしていくことにつながる。何の国民的議論もなく進んでいく状況は適切ではない」と指摘。島根県の丸山達也知事は6月の記者会見で「(沿線自治体とJR西で)立場や立脚点が違うので話が完全にかみ合うことはない」と話した。【松原隼斗】

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