行政や鉄道各社が事故防止のため、エスカレーターでは歩かないよう呼びかけを続けているものの、歩行者のために片側を空ける国内の慣習は根強い。ネット交流サービス(SNS)ではエスカレーターを「歩く権利」を主張する声も出る中、メーカーが歩行防止策へ動き出した。
そもそもエスカレーターは歩行を想定して設計されていません――。エスカレーターの製造・メンテナンスを手掛ける日立ビルシステム(東京)は5月、「エスカレーターを歩くとなぜ危険?」などを解説する特設ページを公開した。
エスカレーターと階段では建築基準法が定める段差の幅などが異なるため、歩行時にはつまずきや踏み外しの危険性があることを呼びかけている。
同社はこれまで、エスカレーターの納入先への注意喚起はしていたが、利用者への呼びかけは初めて。同社広報の小泉佳一郎さんは「エスカレーターは階段ではないという大前提から周知していく必要がある」と狙いを語る。
特設ページでは、エスカレーターの歩行に伴う転倒や他者の巻き込まれ被害などのリスクも紹介している。実際、歩行が絡んだ事故は少なくない。一般社団法人「日本エレベーター協会」の調査によると、2018~19年にエスカレーターで発生した事故1550件のうち、半分以上の805件が歩行や手すりにつかまらないといった「乗り方不良」が原因だった。
鉄道各社も乗車時には立ち止まり、歩行者用に片側を空けるのをやめるよう呼びかけている。駅構内のエスカレーターは特に歩く人が多いからだ。22日からはJR各社など全国の鉄道事業者や空港施設、自治体などが共同で「歩かず立ち止まろう」キャンペーンを8月末まで実施する予定だ。
地方自治体では21年10月、埼玉県が全国で初めて立ち止まることを努力義務とする条例を施行。23年10月には名古屋市も続き、徐々に機運は高まりつつある。
日立ビルシステムの特設サイトでは、片側空けより、エスカレーターの両サイドに立ち止まって乗る方が輸送効率が上がるといった豆知識も発信している。特設サイトのURLは(https://www.hbs.co.jp/ad/escalator-walk-risks/index.html)。【高田奈実】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。