楽しみながら浮く感覚を学ぶため、ポテトチップスを抱いて浮かぶ子ども=NPO法人AQUAkids safety project提供

 今年も海や川などで命が失われる水難事故が起きている。水辺の事故から命を守る活動に取り組む、大阪市のNPO法人AQUAkids safety project(アクアキッズ セーフティープロジェクト)は、7月30日を「サンダルバイバイの日」と制定。7(ながされた)3(サンダルは)0(おいかけない)として、「バイバイしよう」と呼びかけている。すがわらえみ代表に水辺で遊ぶ時の注意点などを聞いた。【まとめ・前本麻有】

 ――「サンダルバイバイ」はシンプルでわかりやすいですね。

 ◆サンダルはお金で買えても、命はどこにも売っていません。サンダルを「追いかけない」と否定形ではなく、「バイバイする」と能動的に伝えています。命が懸かった場面では、サンダルをなくしても「叱らない」と保護者が約束することが重要です。脱げにくい水遊び用のアクアシューズを使うことなども呼びかけています。

 ――活動のきっかけは。

 ◆私自身が泳ぐのが好きで、水泳のインストラクターもしていたので、事故防止や応急手当てなどの知識、資格がありました。子どもを出産してから、なおさら水難事故などのニュースを見て「なんで……」と胸を痛めていたところ、夫から「君はインストラクターだったから知っているけど、普通の人は事故の予防法なんて知らないよ」と言われ、2019年から「水の事故から子どもを守ろう」と始めました。

 ――警察庁統計によると中学生以下の死亡・行方不明はプールや海よりも河川が多いです。

 ◆河川は水の流れや深さが一定ではありません。プールは有料だったり、海は地理的に遠かったり遊泳禁止のところもあります。川は生活の身近なところにあり、子どもたちだけでアクセスしやすく、何よりプールや海と違って監視員がいないので危険だと言えます。

「サンダルバイバイ」を呼びかける、すがわらえみ代表=大阪市中央区で2024年7月1日午後2時47分、前本麻有撮影

 ――水辺で遊ぶ時の注意点は。

 ◆まずはライフジャケットの用意です。事故の通報から救助の現場到着まで約8~10分はかかります。「浮いて待て」と言われますが、泳力がある人でも、悪天候で波や水が顔にかかる状況で浮いて待つのは困難です。ライフジャケットがあれば呼吸を確保しやすく、体力の消耗を抑えて救助が待てます。最初が肝心なので、初めて水辺で遊ぶ時から装着するようにしてください。今からでも遅くありません。その時は「今までごめんな、お母さん勉強してん。ライフジャケットがあるとないのでは大違いやねん」と伝えてください。

 ――子ども用ライフジャケットの選び方、装着のポイントは。

 ◆①体のサイズに合ったもの②見つけてもらいやすいよう目立つ色③「浮き」が固定されて入っているものです。膨らませるタイプは扱いが難しかったり、耐久性に劣る製品もあったりするので注意が必要です。あおむけに浮きやすいよう頭部に「枕」が付いたものは、水面で浮いて待つ姿勢が保ちやすいのでお薦めです。重要なのは股下ベルトです。股下で固定しておかないとジャケットが顔にずり上がってしまい、呼吸がしにくくなって危険ですので、子ども用は股下ベルトがあるものを選んでください。

 ――現地で心がけることは。

 ◆プールや海なら、まず監視員にあいさつをすること。子どもが来ていると認識してもらうだけでも、万が一の時の対応が変わってきます。またトイレでは性犯罪も起こりやすいので「混んでいない~? ここで待ってるで~」など、声かけで防げるトラブルもあります。監視員がいない場所では子どもを見張っておく「子ども係」を決めてください。家族やグループ連れなど、大人の数が多いと「誰かが見ているだろう」と注意が薄れ、バーベキューやテントの準備などに気が取られて目を離しがち。注意して見ておくだけの「子ども係」を決めておくと事故のリスクを減らせます。

 ――「予防」がとにかく重要ですね。

 ◆そうです。「時を戻そう」といってイメージしてもらうのですが、心肺蘇生法やAED(自動体外式除細動器)を使う状況になる前に、時間をさかのぼって対処できることはないかを考えます。天気予報や雨雲レーダーのアプリで天候の急変がないかを調べ、モノ(脱げにくいシューズ、ライフジャケット)や「子ども係」といった簡単な備えで大きな被害を防げるのです。水辺からの帰り道で、誰もが「また来ようね」と言える日を願って活動をし続けます。

NPO法人 AQUAkids safety project

 2021年に法人化。地域の子育てサークルや学校、スイミングスクールなどで、水難事故の予防、緊急時の大切な判断・行動・手当の方法などを教えている。ライフジャケット着用の重要性を伝えつつ、子どもが楽しみながら学べるよう、最近では企業の協力を得てポテトチップスの袋を抱いて浮く体験などもしている。ホームページ(https://aquaproject721.wixsite.com/website)から、サンダルバイバイの「おやこ条約」がダウンロードできる。

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