会談に臨む木原稔防衛相(中央左)と申源湜国防相(同右)=シンガポールで2024年6月1日、中村紬葵撮影

 政府が12日に閣議了承した2024年版防衛白書では、韓国について「パートナーとして協力していくべき重要な隣国」と初めて明記した。徴用工問題や日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄問題などで関係が冷え込んだ進歩系の文在寅(ムンジェイン)前政権時と比べ、保守系の尹錫悦(ユンソンニョル)政権下で安全保障分野の関係改善が進んだことを強く印象づける内容となった。

 白書では、6月の日韓防衛相会談で、韓国海軍による自衛隊機へのレーダー照射問題の再発防止策で合意し、中断していた2国間の部隊のハイレベル交流再開を決定したことを明記。再発防止策によって「防衛省・自衛隊としては、長年の懸案であった火器管制レーダー照射事案の再発防止および部隊の安全確保が図られたと判断している」と述べた。

 白書は通常、その年の3月までに起きた出来事を記載することになっており、異例の対応だ。防衛省は「大きな進展が見られたので、重要性に鑑みて記述を設けた」と説明した。

 10日には防衛当局間の実務者対話が都内でおよそ9年ぶりに開催された。

 また白書では日本が同盟国・米国以外で、自由や民主主義といった価値観を共有する国々との協力や連携を深めていることを重点的に取り上げた。日米同盟については23年版と同量の約40ページだったが、米国以外の国々との連携をまとめた箇所は23年版の50ページから、70ページに増えた。項目を立てて記述した国や機関の数も47から51に増えた。

 特に大きく分量が増えたのは韓国とフィリピンだ。韓国は掲載写真を1枚から4枚に増やし、3ページ超にわたって首脳会談や防衛相会談の中身も細かく記述した。

 フィリピンについては、23年版では約1ページだったが24年版では2ページ超を割いた。日本が防衛装備品の完成品を初めて輸出した防衛装備移転の重要な実績として、警戒管制レーダー2基の納入を紹介。2国間だけでなく日米比、日米豪比の多国間枠組みでの会談や共同訓練が行われたことも記した。

 このほか、北欧・バルト三国ではラトビアとリトアニアが、中東欧ではルーマニアが、インド洋沿岸国・中東ではモルディブがそれぞれ新たに項目として追加された。

 防衛省が4月に推進計画を策定した「女性・平和・安全保障(WPS)」も約4ページにわたって盛り込んだ。00年に国連安全保障理事会で関連決議が全会一致で決議されたことから、「国際情勢が不透明さを増す中、WPSの考え方がますます重要になっている」とし、インド太平洋諸国などでの意見交換や能力構築支援を紹介した。

 一方、白書では、「ハラスメントを一切許容しない環境の構築」との項目を作り、「ハラスメント案件の対応や防止対策の見直しにスピード感をもって取り組む」と説明。「今後もすべての自衛隊員にハラスメント防止を徹底させる」とも述べていた。防衛省は10日の自民党の部会で、省内でのパワハラの事実を認めて謝罪。白書で掲げた目標と現実がかけ離れていることを浮き彫りにする皮肉な結果となった。【中村紬葵】

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