アスベスト(石綿)が原因の中皮腫で死亡した男性(当時54歳)の長男が、労災関連の記録を労働基準監督署が誤って廃棄したのは違法だとして、国に約300万円の賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁は11日、請求の一部を認めて1万1000円の賠償を命じた。野上あや裁判長は「法的義務に反して違法だ」と判断した。
厚生労働省の2015年の調査では、石綿関連記録の誤廃棄は全国で約6万4000件に上る。原告側によると、記録の廃棄を巡って国の賠償責任を認める判断は初めてという。
判決などによると、男性は兵庫県三木市で鉄工所を経営。建設現場で切断した建材などから石綿を吸引し、03年に死亡した。加古川労基署(兵庫県加古川市)は5年後に労災認定した。
石綿関連疾患は発症までの潜伏期間が長いことから、国は05年に関連記録を長期保存するよう、全国の労働局に通達で指示していた。だが、長男が建材メーカーを相手取り、別の裁判を起こす過程で誤廃棄が発覚。加古川労基署は19年、長男に書面で謝罪していた。
判決は、記録の誤廃棄は加古川労基署が通達を見過ごしたことが原因だと認定。保存期間を延長しなかった運用についても「許容される限度を逸脱し、著しく合理性を欠く」と述べた。そのうえで、記録の開示を受ける長男の利益を侵害したと認め、慰謝料などで1万1000円の賠償が相当だと結論付けた。
長男は判決後、代理人弁護士を通じて「父も記録も戻ってこないが、二度と同じようなことにならないよう改めて対策をしてほしい」とコメントした。
厚労省は「判決内容を精査して今後の対応を考える。誤廃棄が発生したことは遺憾で、近日中に各労働局に石綿関連文書の適正管理について改めて指示する」とした。【大野航太郎】
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