性別変更を巡る高裁決定を受け、取材に応じる代理人の南和行弁護士(左)ら=2024年7月10日午前10時31分、中村清雅撮影

 戸籍上は男性で、女性として暮らしているトランスジェンダーの当事者が性別の変更を求めた家事審判の差し戻し審で、西日本の高裁は10日、変更を認める決定を出した。 

 願いがやっとかなった――。トランスジェンダーの申立人の性別変更を認めた10日の高裁決定は、手術なしで男性から女性となる道を開いた。ただ、身体の構造上、「女性から男性」に比べて「男性から女性」への性別変更は、なおハードルが高いとみられる。

 「社会的に生きている性別と、戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思う」。申立人は、代理人の南和行弁護士を通じてコメントを出した。

 2004年施行の性同一性障害特例法は性別変更のために五つの要件を設けた。このうち、生殖機能がない(生殖不能手術要件)▽変更する性別の性器に似た外観を備える(外観要件)を満たすには手術が必要とされ、二つは合わせて「手術要件」と呼ばれてきた。

 手術にかかる費用は100万円以上になることも珍しくなく、体の負担も大きい。23年の最高裁大法廷決定は生殖不能手術要件を違憲・無効と判断し、手術なしでの性別変更が認められるかは外観要件を満たすかどうかがカギとなった。

 男性への性別変更を望む女性の場合、ホルモン療法で女性器の一部が肥大化しやすい傾向があり、大法廷決定以降は、ホルモン投与で外観要件を満たしたとして手術なしで性別変更が認められ始めている。

 一方で、女性への性別変更を望む男性が外観要件を満たすためにはホルモン療法だけでは難しく、一般に男性器の切除手術が必要とされていた。高裁決定は、ホルモン療法によって起きた申立人特有の身体の変化を踏まえて手術なしで女性化したと認めたが、同種ケースがどれほどあるのかは不明だ。

 日本GI(性別不合)学会理事長で、岡山大大学院の中塚幹也教授(生殖医学)は「手術なしで男性から女性への性別変更が認められることはないと考えられていた。高裁決定で、認められることがあると明示された点には意義があるが、広がりは見えづらい。なおも手術を求められる当事者は多いとみられ、国会では外観要件の要否を冷静に議論してほしい」と求めた。【中村清雅、遠山和宏】

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