くも膜下出血で寝たきり状態になった50代の男性医師が10日、宿直を労働時間から除外して過重労働による労災だと認めなかった国の対応は不当だとして、労災認定を求める訴えを東京地裁に起こした。「院内PHSを持たされて、いつ呼ばれるか分からない緊張のもとで待機し、オンコール(待機)状態で過ごす夜にぐっすり眠れる人などいるでしょうか」。男性の妻は、宿直が労働時間として見なされないことに疑問を投げかける。
訴状などによると、男性は東京都内の大学病院の緩和医療科で勤務していた2018年11月、くも膜下出血を発症した。発症前1~6カ月の時間外労働は、過労死ライン(月80時間)を超え、月2~5回程度の宿直を含めると毎月182~278時間に上るとして、三田労働基準監督署に労災を申し立てた。
だが三田労基署は労災を認めなかった。午後5時15分から翌朝午前8時半の15時間15分の宿直のうち6時間は「仮眠が取れた」として、労働時間から差し引いた。
さらに東京労働局の労働者災害補償保険審査官への審査請求では、審査官は宿直中の労働時間はゼロと判断した。審査官は、宿直を「待機を主とする状態でほとんど労働をする必要のない勤務」と評価した。厚生労働省の労働保険審査会もほぼ同様の判断で、労働時間以外で重視する仕事の質についても「精神的緊張を伴わない業務」としていた。
男性側は訴状で、宿直中は重症患者の対応で仮眠どころか休憩すら取れない日があったほか、待機中も緊張状態にあったと主張している。労基署長の許可を受ければ宿直勤務が労働時間規制から除外される特例「宿日直許可」についても言及した。審査官は病院が宿日直許可を受けていたことも根拠に、宿直を労働時間と認めないとしたが、男性側は「宿直業務が労働時間かどうかは実態通りに認められるべきだ」と訴える。
男性の妻は「病院側も労働時間と認め、手当も支給している宿日直業務全てが『労働時間ではない』と否定されることは理解に苦しむ。不当な判断を問いたい」とコメントした。
代理人弁護士の川人博氏は「こういう形で倒れた方でも労災として認めないのは冷徹で、医療現場の大変さを無視している。医師の働き方改革で、労働時間が長くならないよう宿日直許可を使うのが厚労省の事実上の方針だが、長時間労働を野放しにしている」と述べた。【宇多川はるか】
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