神奈川県平塚市で2023年9~11月、当時8歳の男児が自宅に置き去りにされたとされる事件で、保護責任者遺棄罪に問われた無職、芥里菜被告(25)の初公判が17日、横浜地裁小田原支部(寺本真依子裁判官)であった。検察側は、男児への育児放棄(ネグレクト)が昨夏以降に強まっていった様子を詳述。男児の助けを求める「サイン」は何度も見逃されており、虐待の恐れのある児童を保護する難しさが改めて浮き彫りとなった。
事件の概要
芥被告は起訴内容をおおむね認め「息子に申し訳ないことをした」と述べた。弁護側は放置期間について争うか検討するという。
起訴状や検察側の冒頭陳述によると、芥被告は当時、平塚市内で男児と2人で暮らしていた。芥被告は高校1年で男児を出産し退学。働きながら実家で子育てしてきた。結婚を機に平塚市で夫と男児の3人で暮らし始めたが、23年7月に離婚。同時期に別の男性と交際関係になり、外泊を繰り返すようになっていったという。
「熱が出て頭が痛い」とLINEしても…
男児が周囲に「サイン」を発し始めたのもこの頃だ。6月以降、学校は休みがちに。他の生徒は半袖に衣替えしていくのに、男児は長袖のまま。無断欠席が増え、教諭は家庭訪問しても会えなかったという。
男児は芥被告や被告の母である祖母とLINE(ライン)で連絡を取っていた。7月ごろには芥被告に「熱が出て頭が痛い」と体温計の写真とともにメッセージを送付。芥被告は医療機関に連れて行かなかったとされる。
夏休みには実家に男児のみ帰省し、祖母が面倒を見た。男児は「ママは仕事をがんばっている」と気遣う一方、「僕は生まれてこなかった方が良かった」と吐露。「1人の時間ばかりで怖い」と泣きながら髪をむしったという。
検察側は、芥被告が「10月下旬からは交際相手の家に滞在したまま帰宅しなかった」と指摘。11月9日、自宅の電気が止まり、男児は近隣住民に助けを求めた。住民が通報したことで事態が発覚し、児童相談所はネグレクトの疑いで一時保護した。自宅内は床一面に物が散乱し、食べかけのカップ麺が数個置かれていた。男児の手の甲は黒ずんでいたという。
早期保護、難しく
保護者のネグレクトが疑われる事件は繰り返されている。平塚市の事件で男児は無事に保護されたが、近隣住民の通報などがなければ最悪のケースも起こりえた。
厚木市では2022年7月、20代の母親が交際相手宅を訪れた際、駐車場の車内に長男(1)と長女(2)を放置し、2人を熱中症で死亡させた。事件前の別の日にも長男が車内に置き去りにされており、県警はネグレクトの疑いで厚木児童相談所に通報。しかし、児相の対応は遅れ、事件後に陳謝する事態となった。
大阪府富田林市では22年6月、自宅に置き去りにされた小野優陽(ゆうは)ちゃん(2)が熱中症で死亡した。保護責任者遺棄致死罪などに問われた40代の祖母と内縁の夫は数日にわたり外泊し大阪市のテーマパークに遊びに行っていたとされる。20年には東京都大田区のマンション一室に9日間放置された女児(3)が衰弱死。母親は交際相手がいる鹿児島県に出かけていたという。
一方で、平塚市の事件で、芥被告は捜査段階の取り調べで育児への悩みや葛藤も打ち明けていたとされる。育児に悩む母親をいかに孤立させないか。ネグレクトの被害児童をどのように早期に保護するか。事件は難しい問題を社会に突き付けている。【横見知佳、柿崎誠】
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