発掘現場の様子。CF達成で発掘範囲を広げる方向だ=信州大の山田桂教授提供

 クジラの化石を発掘、研究する費用を募るため信州大などが呼びかけたクラウドファンディング(CF)。開始後12日で目標の320万円に達し、13日現在500万円を超えている。同大の山田桂教授(古生物学)は、当初の目標額を超えて集まった資金で、発掘、研究の範囲拡大を目指す。クジラ一体分の化石が救い出される可能性が見えてきた。

 山田教授は「地方大学の一教員が行うCFに支援が集まるか不安だったが、多くの人が関心を持ち、ロマンを感じてくれた」と喜びをにじませる。

 山田教授や学生らのチームは2020年7月、秋田県能代市二ツ井町の白神山地のふもとで270万年前のクジラの化石を見つけた。化石は大型で肋骨(ろっこつ)など一部しか運び出すことができなかった。約4メートルに及ぶ下顎(したあご)は機材などの関係で運搬ができず、現地に残さなければならなかった。

 当初の目標額を達成し、これまでに見つかっている化石の発掘、運搬作業を進めることができるようになった。山田教授は「支援してくれたすべての人にお礼を伝えたい」と話す。

 これまで発掘した4メートル四方の範囲で、2020年の発見以降も毎年、新たなクジラの化石が見つかっている。周辺も含めるとクジラ一体分の化石が埋まっていると考えられるという。

 山田教授の願いは「そこにあるすべての化石を発掘したい」。その費用としてCFの次の目標金額を800万円に設定した。7月18日までの予定で寄付を募る。

 山田教授は、8月末~9月に発掘調査をしようと日程調整などを始めている。

研究資金不足でCF活用加速 達成率高く

 信大のCFは開始から12日という早期に目標を達成した。資金募集を掲載したCFサイト「READYFOR(レディーフォー)」の広報担当、佐藤友紀さんは「化石の発掘にワクワクした人が多かったのでは」と話す。

 研究資金が不足し、大学などがCFを活用する動きが活発化している。同社は、研究系のCFに対応する専門チームを設置。勉強会などを通して知識を深め、資金を募る研究者に「伴走」できる体制を整えている。

 今回のCFでは、募集ページにクジラの下顎の化石や発掘の様子の大きな写真を掲載し、「見る人に『研究の仲間になってほしい』と訴える形にした」という。同時に化石などの情報発信をしている人や博物館などに依頼し、SNS(ネット交流サービス)を通して情報を拡散した。

 同社は「(研究系など)資本主義の領域ではお金が流れにくい分野に(資金が集まる)流れを作りたい」と信州大を含めた約70大学と提携。募集時に使い道の明示を求めてはいるが、集まった資金は「使い道に柔軟性がある」など、研究者らにメリットがある仕組みにしている。佐藤さんは「公的なものと併用してもらえれば」と呼び掛ける。

 一般的なCFの達成率が20~30%に対し、研究系では86%と高く、同社はこれまで約400件で約25億円の寄付を集めたという。国立大学の独立法人化などで研究費の削減が続く中、多くの人の支援を得られるCFは影響緩和の一助になっている。【鈴木英世】

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