徳島県が2026年秋をめどに、縦25・5ミリ、横36ミリの小さな「紙切れ」の発行を廃止する。徳島県民に限らず、運転免許証の更新や旅券(パスポート)発行の際などに一度は手にした人も少なくないはずだ。廃止を歓迎する声が多いのだが、その「紙切れ」とは……。【植松晃一】
廃止されるのは、徳島県が手数料などを徴収する際、書類に貼るよう求めている「収入証紙」だ。徳島県では1958年から発行が始まり、66年の歴史がある。県のさまざまな手続きに伴う手数料などを、窓口で現金をやり取りせずに受け取るための金券で、国が発行する「収入印紙」と役割は似ている。現金の管理をなくすことで職員の負担を軽減するのも狙いで、今も徳島県を含む40道県が発行している。
徳島県では、1円から1万円まで12種類の証紙があり、手数料などの額に応じ、組み合わせて貼る。中には、200円や300円、3000円と、現行の硬貨や紙幣にもない金額の証紙もある。10年旅券の発行手数料は1万6000円だが、徳島県の場合は国に納める分は1万4000円分の収入印紙を購入し、県の分は2000円分の収入証紙を貼り付けるといった具合だ。
徳島県では、パスポート以外にも、運転免許証や飲食店の営業許可など約770種類ある手続きに必要な手数料支払いに証紙を求めている。大人だけに関係する話かと思ったら大間違い。県立高校入試の受検料(全日制で2200円)も証紙で納める必要がある。県会計課によると、22年度には約82万件(約13億4000万円)を証紙で収納した。ちなみに、証紙は毎年、在庫状況をにらみながら印刷しており、毎年、印刷代などのコストが約5000万円かかるという。
この証紙、県内の地銀本支店などで販売されているが、閉店後や休日には買えない。運転免許証の交付を担っている県運転免許センター(松茂町)では、県警職員ではなく、県交通安全協会の職員が証紙を販売している。JR徳島駅ビル「徳島駅クレメントプラザ」(徳島市)6階にある県パスポートセンターでは、センター出入り口から数メートル離れたフロアに置かれた自動販売機で旅券申請に必要な金額分の証紙を買うことができる。いずれも、県の手続きを担う部署なので、窓口には県職員がいるのだが、現金を扱うことを避けるため、そのすぐそばで県職員でない人などが収入証紙を販売するということになる。複数の窓口で手続きが必要となり、違和感を抱く人も少なくない。
県のアンケート67%が「不便」
スマートフォンなどを使ったキャッシュレス決済が普及する中、2023年5月に就任した後藤田正純知事が収入証紙のあり方について問題提起したのをきっかけに、県は同年10~12月にウェブサイトでアンケートを募った。意見を寄せた196人のうち、証紙での支払いを「便利」「やや便利」と答えたのは19%にとどまり、67%は「不便」「やや不便」との結果だった。そして、同時期に学識経験者や金融機関関係者などの専門家による検討が進められた結果、「将来的には申請、支払いとも電子化に移行すべき」「高齢者などに配慮し、現金収納も残すべき」といった意見がまとめられた。
全国的には、10年3月限りで収入証紙の発行をやめた東京都を皮切りに、大阪府や広島県、鳥取県など計7都府県が廃止している。では、7都府県では、どうやって手数料などを収納しているのか。
パスポートの場合、18年9月に「収入証紙」の販売を終了した大阪府では、発行手数料を現金で納めることになった。また、岡山県などでは、発行される納付書を金融機関などに持参して納める。鳥取県の場合、納付書のほか、電子マネーやクレジットカードを使った納付も選べる。ただ、いずれも国の手数料分の収入印紙を貼る必要はある。
実は徳島県では、パスポートをオンライン申請する場合、23年12月から手数料をクレジットカードで納付できるようにしている。今後、収入証紙を廃止した場合の収納方法のほか、高齢者などを念頭に現金収納も一部残すのかどうかなどを検討する方針だ。
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