「秋田竿燈まつり」で重い竿燈を持ち上げる差し手ら=秋田市で2023年8月、工藤哲撮影

 東北3大祭りの一つとされ、秋田市で毎年8月に開催される伝統行事「秋田竿燈(かんとう)まつり」で、竿燈を持ち上げる「差し手」を含む演技者が直近の2年間で9人負傷し、うち2人が病院に搬送されたことが市消防本部への情報公開請求で判明した。

 期間中の負傷事故は過去にも珍しくなかったとされ、関係者の間には「祭りにけがはつきもの」といった考え方もある。しかし竿燈を安全に扱うには熟練の技が必要といい、演技者の団体は「普段から意識して体を鍛えないと、うまく竿燈を上げるのは難しい。これ以上けが人を増やさないようしっかり対策をとっていきたい」としている。

 竿燈まつりは国指定の重要無形民俗文化財で、江戸時代には既にあったと伝えられる。今年も8月3~6日に秋田市内での開催が予定されている。

 長さ12メートルの長い竹ざおに横竹を結び、46個の大提灯(ちょうちん)をつるして灯をともす。これを掌や額、肩、腰に乗せて巧みに操るのが差し手だ。元々はちょうちんを持ち歩くものだったが、庶民の力比べに発展し、現在に至るとされる。

秋田竿燈まつりで起きた演技者の負傷事故

 演技中には最大で重さ50キロにも及ぶ竿燈を1人の差し手が支える。風にあおられて事故が起きることもある。

 市消防本部の開示資料によると、会場での救急事案などの発生は2023年に38件、22年に23件確認された。多くが観衆らによる「竿燈が倒れてきて当たった」「見ていて立ちくらみを発症した」「転倒した」といったもの。しかし、この中には差し手やその周辺を歩く演技者自身が負傷する事故が23年に4件、22年にも5件起きていた。

2023年の「秋田竿燈まつり」会場で起きた救急事案などについてまとめた秋田市消防本部の開示資料。中には「脱臼疑い」のような事例(下線)もあった=秋田市で2024年5月30日、工藤哲撮影

 このうち病院に搬送されたのは23年、22歳の男性が演技中に右肩を負傷し、脱臼の疑いがもたれた事案と、22年に竿燈が倒れて29歳の男性が顔面を強打し、両目のまぶたが切れた事案の2件。

 消防本部は「詳しい事故の状況把握はこの記録の範囲だが、いわゆる『演技者』の中にはまつり当日の差し手やその周辺でかけ声をかける人、また太鼓をたたいたりおはやしの笛を吹いたりする人が含まれる」としている。

50キロを1人で上げ続け、後遺症も

 祭りの主役となる大人用の竿燈「大若」は長さが約12メートル。竿を継ぎ足すとビルの3~4階の高さに相当する18メートル近くにまで達する。重さは最大で50キロにもなり、これを1人で持ち上げる。「東北の主要な祭りの中では最も体に負担がかかっている」と指摘する関係者もいる。

 こうした差し手特有の姿勢を続けることで、首などに後遺症が残る事例も相次いでいる。差し手を長年経験してきた男性によると、毎年のように竿燈を持ち上げる動作を続けることで、頸椎(けいつい)や腰、額に大きな負担がかかる。

 後になって指がしびれたり、首を回しにくくなったりする後遺症を抱える差し手もいる。過去には落下した竿燈が足を直撃し、足の指の骨がつぶれてしまうなどの事故もあったという。しかし竿燈を持ち続けることによる負傷を「勲章」ととらえる関係者も少なくないという。

 再発防止策はないのか。市内の各町内会や企業の竿燈会を束ねる「秋田市竿燈会」の加賀屋政人会長によると、祭りの前にはそれぞれの参加団体に安全管理者を配置し、十分な練習をしたうえで臨むよう参加各団体に求めているという。

 加賀屋会長は取材に対し、「それでも技量や練習が不十分なまま、危険を顧みずに見た目の格好良さを求めて無理な演技をしてしまう人もいる」と指摘する。また「過去にも差し手の負傷は珍しくなかったが、竿燈には『力4分、技6分』という言葉があり、体を痛めずに竿燈を持ち上げる伝統の技がきちんとある」と話している。【工藤哲】

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