新型コロナウイルスの1定点当たりの県内患者数が3週連続で10人を超え、増加が止まらない。高齢化の進展を背景に救急搬送件数が高止まりする中、ベッドが満床で診療制限をせざるを得ない状況に追い込まれた医療機関もある。医療関係者は「このまま患者が増え続ければ、昨夏の『第9波』と同じ状況になりかねない」と危機感を募らせる。(社会部・下里潤)
「ゆっくりと津波が押し寄せ、気が付けば医療崩壊しているような感じだ」
県立中部病院救命救急センターの山口裕医師は、県内救急医療現場の現状をこう説明する。同院では新型コロナに対応した約30のベッドは満床。何とか退院調整をして空きを確保しているが、これ以上の受け入れが難しい状況だ。
基本方針として「軽症、重症を問わず、全ての患者を受け入れる」ことを掲げ「断らない救急」を実践してきたが、それも限界に近づきつつある。
理由の一つは高齢化の進展だ。総務省消防庁によると2022年に搬送された65歳以上の県内高齢者は4万5084人で、10年前の約1・5倍に増えた。搬送件数全体の約6割を占めている。
県内の医療機関は観光客の救急搬送などもあり、人口比以上の患者を受け入れているのが実情だ。慢性的に不足するベッドに、新型コロナの流行が拍車をかけている。
新型コロナの定点患者数は4月1~7日の1週間は4・58人と少なかったが、5月以降は2倍以上に増え、インフルエンザなら流行注意報に当たる10人以上が続いている。直近の5月20~26日は14・09人だった。
昨年の「第9波」も、5月末ごろから患者数が急激に増加した。ピーク時の定点患者数は50人に迫り、入院者数も千人を超えるなど医療機関が逼迫(ひっぱく)。救急搬送を受け入れられない事態も生じた。
山口医師は「身近な人が交通事故や急病などで入院できず、期待通りの医療が受けられない可能性がある。命の選択を迫られる状況になりかねない」と警鐘を鳴らす。
医療逼迫の予防は地球温暖化の取り組みと似ているとし、「一人一人の行動は効果が見えにくいかもしれないが、小さな積み重ねが医療を救う」と強調。手指消毒など基本的な感染対策の重要性を訴えた。
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