読み聞かせ会で、児童の感想を聞く谷口真知子さん(奥右)と北川たつやさん(同左)=群馬県藤岡市で2023年7月10日午後2時3分、西本龍太朗撮影

 1985年8月12日、日航ジャンボ機が「御巣鷹(おすたか)の尾根」(群馬県上野村)に墜落し、乗客乗員520人が亡くなった事故で夫を失った谷口真知子さん(76)=大阪府箕面市=が7月6日、自ら手がけた絵本「パパの柿の木」の朗読講演会を藤岡市みかぼみらい館小ホールで開く。谷口さんは「長年お世話になった方々に感謝の気持ちを伝えたい」と話す。

 谷口さんの夫正勝さん(当時40歳)は、出張帰りに羽田発大阪行きの日航機に乗って事故に遭った。絵本では、生前に正勝さんが自宅の庭に植えた柿の木に励まされ、谷口さん一家が前を向いて歩んでいく姿が描かれている。

 谷口さんが県内で対面の朗読会を開催するのは2回目。事故当時、藤岡市内の体育館などには犠牲者の遺体安置所や家族らの待機場所が設けられ、その後、体育館跡地に石碑が建てられた。谷口さんは、地元住民らが草むしりや清掃をして碑を守り続けていることを知り、「直接お礼を伝えたい」とかねて考えていたという。2016年に絵本を出版し、19年に英訳されてから体験を語る機会が増えたが、コロナ禍もあり県内での開催がすぐにはかなわなかった。昨年夏に同市内の小学校で読み聞かせ会を開いた縁で、今回の開催が決まった。

 事故当時、谷口さんの長男は、体育館の外で待っていた時に婦人会から冷たいキュウリをもらったという。それから1年ほどたったころ、夫は長い間、痛くて苦しい思いをしたのではないかと悩み、眠れない日々が続いた。助けを求める声がだんだん聞こえなくなったという生存者の証言に報道で触れ、いてもたってもいられなかった。正勝さんの身元確認を担当した医師に手紙を書くと、自宅に招かれた。生前の写真や資料を持って行って確認してもらったところ「即死だったから大丈夫」と説明され、「変な話なんですけど、ほっとしました」と振り返る。

 事故後の対応には警察や自衛隊、医療関係者だけでなく、犠牲者の捜索に協力した消防団や猟友会など多くの地元住民が加わった。谷口さんは「夫を見つけて連れて帰ってくださった方たちのおかげで、私は歩み始めることができた。たくさんの人の善意があり、今の生活がある」と感謝する。

 当日は谷口さんの絵本の朗読と講演に加え、シンガー・ソングライターの北川たつやさんも登壇し、北川さんが絵本を基に作詞・作曲した歌「茜空」を披露する。

 7月6日午後1時開場、同1時半開演。入場無料。定員は先着400人で6月1日から事前申し込みを開始する。問い合わせと申し込みは同市立図書館(0274・22・1669)。【日向梓】

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