小林製薬の紅こうじサプリメントによる健康被害を受けた政府の対応が決まった。機能性表示食品のサプリを製造する工場の安全性の担保や、健康被害の行政への速やかな報告を義務化することが柱だ。これで健康食品の安心・安全は取り戻せるのか。
厚生労働省はまず、健康被害の原因究明を進めてきた。小林製薬から提供を受けた原料サンプルについて国立医薬品食品衛生研究所で分析し、原料を製造していた同社大阪工場に立ち入り調査を実施した。
約2カ月の調査を経て厚労省は、原料サンプルに含まれていた青カビが作り出す天然化合物「プベルル酸」が腎障害を引き起こすことを動物実験で確認した。また大阪工場から青カビを検出し、製造工程で混入したと推定されると明らかにした。
全容解明には道半ばだが、「対策を打つ段階までは究明できた」(厚労省幹部)という。
唐木英明・東京大名誉教授(毒性学・薬理学)は「青カビが今回の原因であることは確定的だろう」とみている。政府対応では、機能性表示食品のサプリ製造工場には製造・品質管理に関する指針「適正製造規範(GMP)」の認証取得を義務づけることにしているが、唐木氏は「原料工場に義務付けていないことが問題だ。原材料に異物や雑菌が混入しないように注意するのは当たり前で、GMPなどで混入を防ぐことが特に注意しなければならない点だ」と話す。
健康被害の疑いは情報提供の義務
小林製薬が被害を把握してから行政側への報告まで2カ月かかったことも問題視された。政府方針では、健康被害が疑われる事案は因果関係が不明でも情報提供することを事業者に義務づける。違反した場合には営業禁止などの処分を科すルールも設ける。
ただ、対象は「医師の診断を受けた事例」に限られている。健康食品に詳しいNPO法人「食の安全と安心を科学する会」の山崎毅理事長は「診断の有無に関わらず、消費者から直接企業に寄せられた事例など、より多くの情報を集めるべきだ」と改善点を挙げる。
今後の検討課題として政府は、サプリの規制のあり方を挙げた。サプリは特定成分を日常的に錠剤などで摂取するものだが、現行法では食品の位置づけだ。山崎氏は「機能性表示の届け出を撤回すれば、同じ健康食品でも規制対象の外で販売できてしまう。法律でサプリの定義を決め、製造施設にGMPなどを義務づけるべきだ」と指摘した。【肥沼直寛】
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