「夫婦同姓を定める民法の規定に違憲判決が出る可能性がある」――。29日、東京都内での講演で元最高裁判事がこうした認識を示した。その背景には、日本の裁判で最近認められた「ある考え方」があるという。
違憲判決の可能性に言及したのは、元最高裁判所判事の桜井龍子さん(77)。結婚後も希望すればこれまでの姓を戸籍名にすることができる「選択的夫婦別姓制度」の早期導入を訴える経団連が開いた講演で考えを示した。
桜井さんは夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、最高裁が2度目の合憲判断を示した2015年の判決で現行規定に違憲の立場を取った。自らも、旧姓である「藤井」姓の使用が認められなかったことで仕事上の不利益や喪失感を味わった経験があった。
今年3月には、夫婦別姓を認めない現行制度は憲法違反だとして、事実婚カップルらが東京、札幌両地裁に第3次訴訟を提起した。桜井さんは今回の訴訟について「地裁、高裁判決を経て最高裁判決が出るまでには3~4年かかるとみられる」とした上で「希望的観測だが、違憲判決やそれに近い結論が出る可能性がある」との見方を示した。
日本初、「間接差別」認めた判決
その理由として、夫婦のどちらかが改姓しなければならない民法の規定が、「間接差別」とみなされる可能性を挙げた。「間接差別」は、表向きは性別に関係なく扱われているように見える制度やルールが、実際には性差別的になっている措置を指し、男女雇用機会均等法でも禁止されている。東京地裁では29日までに、日本初とされる間接差別を認めた判決が確定した。ほぼ全員が男性で構成される総合職のみに家賃を補助するのは男女差別にあたるとして、大手メーカーの子会社に勤務する一般職の女性が損害賠償などを求めていた。
桜井さんは今回の確定判決も引き合いにしつつ「間接差別も差別であるとの理論は、国際的にはもう常識になっている」と指摘。民法上では夫か妻のどちらかが改姓するとしているものの、実際には約95%の女性が改姓している。結果として旧姓時代の仕事上の実績が認識されないなどの数多くの不利益を女性側が一方的に受けざるを得ないことが間接差別に該当しうるとの見解を示した。また、結婚後に必ず同姓にすることを法律で世界で唯一定める日本は、国連の女子差別撤廃委員会から3回にわたり勧告を受け続けているが、その根拠も間接差別に該当するためだと解説した。
経団連は、望まぬ改姓を強いられた女性が、たとえ職場で通称使用をしてもビジネス上での不利益を免れられていないとの問題意識から、選択的夫婦別姓の早期導入を政府に要望している。29日の意見交換や議論を踏まえ、近く正式に提言を取りまとめ、改めて政府に法改正を迫る考えだ。桜井さんは「経団連が選択的夫婦別姓の提言をするというのは、昔は想像できなかったこと。別姓を選択できるようになれば、女性の生き方や働き方に深く関わり、個の確立にもつながる。時代的に非常に重要なことだ」と経団連の動きを歓迎した。【町野幸】
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