特定技能として入国し、トラブルにまきこまれたリンさん(左)。公的機関では解決せず、SNS経由で、NPO法人日越ともいき支援会の吉水慈豊代表理事(右)を頼った=東京都港区で2024年3月21日午後0時17分、奥山はるな撮影

 外国人技能実習に代わる在留資格「育成就労」の創設を盛りこんだ関連法改正案が21日、衆院本会議で賛成多数で可決された。育成就労の移行先で、より高い日本語能力と技能を求められる特定技能は支援体制が手薄で、支援者からは「すぐにでも公的支援を強化すべきだ」との声があがる。

 さいたま市内のラーメン店に勤めるベトナム人の女性、リンさん(33歳、仮名)は特定技能の試験に合格し、2年前に来日した。グラグラと沸く寸胴(ずんどう)鍋の前で麺をさっと湯切りし、慣れた手つきで盛り付ける。

 営業時間が終わりを迎えると、油脂のこびりついた鍋を抱えて洗う。1日8時間働き、月給は額面で24万円ほど。「今日もありがとう。お疲れさま」と日本人の上司に声を掛けられる度にやりがいを感じる。

 そんなリンさんだが、来日当初、生活を支援してくれるはずの登録支援機関に裏切られ、トラブルに巻き込まれた。愛知県内で働く予定だったが、成田空港に迎えに来た登録支援機関のスタッフから「コロナで受け入れができなくなった」と告げられ、東京都内の別の会社で面接を受けた。

 しかし、面接後、実際に連れてこられたのは群馬県内のアパート。登録支援機関のスタッフに「いつから働けるのか」と尋ねても、「いいから待っていろ」と言うばかり。揚げ句の果てにパスポートと在留カードを取り上げられ、逃げることもできなかった。

 4カ月後に意を決し、同室にいた女性2人と東京出入国在留管理局の出張所に駆け込んだ。窓口で事情を説明し、東京都内の会社で働ける手続きが進んでいるか質問したが、職員から返ってきたのは「申請書が出ていません」という回答のみ。これからの生活を思うと不安で涙がこぼれた。

外国人技能実習に代わる新制度「育成就労」のポイント

 職員の対応はわずか3分で終わった。別の相談先も紹介されず、リンさんは異国の地で途方に暮れた。「最悪。だまされた」という言葉が頭に浮かんだ。

保護したのはNPO法人

 相談先をSNS(ネット交流サービス)で探し、最終的に保護されたのは在日ベトナム人を支援するNPO法人「日越ともいき支援会」だった。吉水慈豊・代表理事は「特定技能の相談は今年だけでも200件以上に上る。公的機関の対応が弱いから、うちに駆け込んでくる。私たちが対処した案件は公的に集計されず、実態も把握されていない」と指摘する。

 こうした実情を踏まえ、改正案は、現行の外国人技能実習機構を改組して支援・保護体制を強化し、特定技能も新たに相談の対象に含めるとしたが、実現は数年先となる。出入国在留管理庁が2023年度、特定技能の286人から回答を得た調査では、就労先や登録支援機関に困りごとを相談しても「解決しない」と答えた割合が27・6%に上った。

 吉水代表理事は「すぐにでも公的機関の人員を増やし、トラブルに対応できる職員を育成してほしい。ノウハウがなければ親身な対応はできない」と訴える。【奥山はるな】

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