「ミタスのコーヒー」の店内でコーヒーをいれる佐々木さん=北九州市戸畑区で2024年5月20日午後4時25分、山下智恵撮影
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 北九州市のJR戸畑駅から東に徒歩3分。戸畑区中本町に、障害のある人が支援を受けながら働く就労継続支援B型事業所「ミタスのコーヒー」がある。「障害があってももっと稼げるはず」。コーヒーショップには、管理者の佐々木元彦さん(51)の熱意と工夫が詰まっている。

 扉を開けると、コーヒーの深い香りと焼き芋をつぼ焼きする甘く香ばしい匂いが漂う。コーヒー豆は生豆を一粒一粒より分けて厳選し、必要な量だけ焙煎(ばいせん)。良質で鮮度の良いコーヒーが売りだ。名物の焼き芋はしっとりとした甘味が特長で、アイス添えや大学芋が人気。ドリップコーヒーの小包や、不良豆を使った「匂い袋」など物品販売もしている。

 コーヒーショップは、障害者の共同生活援助などに取り組む「ミタス」(戸畑区)が、障害者の働く場や地域コミュニティーの場を作ろうと2021年にオープンさせた。

 店の奥に豆の仕分けなどをする作業場があり、事業所を利用する10~60代の24人が交代で働いている。作業場に設けられた狭い個室で豆の選別をしている男性(18)は、24年3月に特別支援学校を卒業し、この春利用を開始したばかり。自閉症や多動性があり、人の気配に敏感だが、刺激の少ない個室で作業すると集中でき、素早く正確に豆の選別をこなせるという。男性は「(作業は)難しくない。自信があるよ」と話し、黙々と作業を進めていた。

 佐々木さんは「コーヒーは売るまでに10以上の工程があり、利用者の特性に合わせやすい。喫茶店は商品が『消費者に届く』という実感も得られる」と話す。

 就労継続支援B型事業所は雇用契約を結ばないため、働いた成果は工賃として全額利用者に支払われる。厚生労働省によると、工賃は全国平均で月1万7031円(22年度)。時給に換算すると243円程度だ。

 一方、「ミタスのコーヒー」の工賃は作業内容や障害の軽重にかかわらず一律1日1400円(原則5時間勤務)で、時給に換算すると280円。施設によって就業時間や事業内容が異なるため、事業所間の比較は難しいが、佐々木さんは「比較的工賃を高く設定できている。だが、まだまだ上げられるはず」と話す。

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コーヒー豆の梱包(こんぽう)をする事業所利用者=北九州市戸畑区で2024年4月23日午後1時32分、山下智恵撮影
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 佐々木さんが工賃アップにこだわるのは、利用者の自信や自立につながると考えるからだ。

 23年9月から「ミタスのコーヒー」で働く月足弘幸さん(35)は高校卒業後に就職して10年間働いたが、その後、数年間引きこもりに。そううつ病など困難を抱えて何もできない状態だったが、豆の選別やパッケージなどを自分のペースで進めるうちにできることが増えていったという。

 月足さんは「働いて賃金を得ることで自信を取り戻せた」と話し、「自分で考え、自分のペースで回復できてきた。仕事なんてとてもできない状態だったが、今は一般就労を目指している」と目を輝かせる。

 佐々木さんは「自分の能力がお金になるのはやっぱりうれしい。支援者の仕事はその手段を提供すること。継続して働いてもらってもいいし、事業所をステップに社会に出てもいい。それぞれの力が発揮できる助けになれば」と話す。

 開店時間は午前10時~午後6時。定休日は日、月曜。店の前の自販機では24時間、物品を販売している。問い合わせは「ミタスのコーヒー」(093・482・5208)。【山下智恵】

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