自動販売機で花咲ガニの販売を始めた滝沢孝さん=北海道根室市納沙布の「岬の駅」で2024年5月1日午後3時57分、本間浩昭撮影

 北方領土を指呼の間に望む北海道根室市・納沙布岬の食堂「岬の駅」の入り口に4月、花咲ガニや醤油(しょうゆ)漬けイクラなどが買える自動販売機が現れた。設置したのは食堂を切り盛りする滝沢孝さん(71)。昼間は食堂で「北方四種丼」(イクラ、タコ、カニのふんどし、サンマの4点盛り)などユニークなメニューを提供してきたが、「根室といえば花咲ガニ。きっと夜にも売れるはず」と商機を感じたという。

 ターゲットは北方領土や本土最東端の日の出を見ようと「岬で車中泊する旅行客」。繁忙期には50台近い車が夜を明かすが、同店も含め岬周辺の食堂は全て夕方で営業を終えてしまい、その後は食料の調達もままならない。最寄りのコンビニエンスストアまでは約8キロあり、営業時間も午後11時まで。「小腹がすいたときに24時間購入できる自販機があれば」と思いついた。

 味の濃さで定評のある花咲ガニ。「食べずに帰る旅人がいては気の毒」とも考えた。予想は的中し、売れた時間帯のデータを確認したら、ほとんどが「午後5~9時に集中していた」という。

 機械の構造上、やや小ぶりの400~450グラムの花咲ガニしか入らない。「いずれ工夫して600~700グラムのカニも販売したい」という。毛ガニやクリガニ、ホッカイシマエビなど、「旬の根室を味わえる食材もどんどん入れていきたい」と夢は広がる。

 カニ容器に添えられた両面カラーの「海の幸 美味(おい)しい食べ方ブック」には、解凍方法やむき方、食べ方のコツなどが書かれており、至れり尽くせりの心配りがうれしい。

 63歳で船を降りた元漁師の滝沢さん。「黙って家にいたら家族に煙たがられる」と始めた食堂だが、自販機が新たな一幕を飾るかもしれない。【本間浩昭】

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