トイレ、求む――。福岡市博多区のJR博多駅などJR九州の主要駅に今月、シンプルな文言で目を引くポスターが掲示された。原因不明の「炎症性腸疾患(IBD)」に対する認知を広げるとともに、患者特有の悩みを理解し、協力につなぐのが狙いだ。19日は「IBDを理解する日」。
急な便意、激しい腹痛…外出もままならず
IBDは、大腸や小腸などの消化器に炎症が起きる病気の総称。大腸の炎症で粘膜がただれるなどする「潰瘍性大腸炎」と、口から肛門までの全ての消化管で炎症が起きる「クローン病」などの指定難病が知られている。厚生労働省の衛生行政報告例によると、指定難病の医療費助成を受けられる「特定医療費受給者証」の所持者は、2022年度に潰瘍性大腸炎が14万1387人、クローン病が5万184人。341(24年4月現在)ある指定難病の中でも人数が多い。
下痢や軟便、急な便意、激しい腹痛などが患者に共通する症状。10~20代での発症が多く、試験や就職活動など大事な場面で症状が起きることがある。見た目で病気と分かりづらく、周りに仮病と誤解されかねないことも患者を苦しめる。
「九州IBDフォーラム 福岡IBD友の会」の山田貴代加・事務局長(54)=北九州市=は12歳でクローン病と診断された。高校生の時、友人と一緒に乗った電車内で症状が出てトイレにこもった。「友達に病気のことを明かすかどうか悩む。外出の約束があっても『今日は調子が悪いから断ろうか』と考えてしまうこともある」と振り返る。
結婚、出産後も症状は続き、患者仲間のアドバイスで、大人用のおむつや尿取りパッドなどを身につけ、急な便意などもしもの時に備えた。症状が落ち着いたのは、子育てが一段落した頃にストーマ(人工肛門)を装着してからだという。
社会全体で理解を 協力の輪広がる
患者たちに寄り添うのが製薬会社アッヴィ(東京)だ。世界IBDデーに合わせ、日本国内でも13年に5月19日が「IBDを理解する日」となった。ただ、同社が一般400人を対象にした調査(20年3月実施)によると、IBDについて「全く知らない」が56%、「聞いたことはあるが、どんな病気かは全く知らない」が34・8%を占めた。
同社は22年5月、患者を取り巻く課題を解消して社会全体での理解を広げる「I know IBDプロジェクト」をスタート。「ご遠慮なくどうぞ」のメッセージ入りステッカーを作り、賛同店舗・企業に張ってもらうことで、患者が外出先でトイレを気軽に利用できるようにした。協力の輪は全国130社2884店舗(15日現在)に広がっている。
24年は、協力企業や店舗を更に募ろうとポスターを初めて製作。13日からJR九州の主要駅などにお目見えした。プロジェクトの事務局は「街なかの協力店を増やしたい」と話す。山田さんも「周りのちょっとした配慮や気遣いがあれば、患者のストレスも軽減される」と理解を求めた。プロジェクトの詳細は公式ホームページ(http://www.iknowibd.com/prj/)で。【日向米華】
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