砥部焼の授業を受ける生徒=愛媛県立松山南高校砥部分校提供

 公立学校としては全国でも珍しいゲームソフト製作について学ぶコースを2025年春に新設する愛媛県砥部町の県立松山南高校砥部分校。町は学校を応援しようと、全国からの生徒受け入れを見込み、学生寮の建設を決定するなど、総事業費約8億2560万円の支援に乗り出した。費用の一部は、ふるさと納税の仕組みを活用したクラウドファンディング(CF)で寄付を募っている。今後もPR活動などに向け、支援を継続していくという。

2025年春に「ゲームクリエーションコース」(仮称)が新設される愛媛県立松山南高校砥部分校=同県砥部町で2024年5月14日午後3時5分、広瀬晃子撮影

 同校(生徒数116人)は1948年に砥部高校として開校し、62年に分校化。現在はデザイン科のみの単科高校で、町の伝統産業「砥部焼」の窯元も多く輩出してきた。だが、県教委は2022年7月、少子化などに伴う再編を含む23~32年度の「県立学校振興計画」の素案で、隣接する松前町の県立伊予高との統合方針を提示。地元住民や卒業生らが反発し、伝統を絶やしたくないと「砥部分校存続の会」を発足させて約2万4000筆の署名を集めた。存続の会が中心となって新コース設置などの支援策をまとめ、22年12月に県教委に提案。23年3月に示された前期計画(27年度まで)では一転して統合猶予が決まった。

 新設されるのは、ゲームソフト製作に不可欠なデザインの基礎や、プログラミングなどを学ぶ「ゲームクリエーションコース」(仮称)。東京都内のエンターテインメント企業が校内にサテライトオフィスを構え、授業をサポートする。新設に伴い、1学年の定員は現在の40人から80人に増員予定だ。統合猶予が決まった際、田所竜二・県教育長が「ゲームデザインを学ぶ課程が実現すれば、全国の耳目を集める」と発言するなど、関係者の期待も高まっている。

 統合が猶予されたことを受け、町は県外から入学する生徒に対する住環境の支援策を検討し、学生寮の建設を決めた。建設地は同校から徒歩圏内の元県窯業試験場跡地(町有地)で、鉄骨2階建ての建物に個室45室や多目的ホールを設ける予定。6月から着工する計画だ。

 学生寮は町が運営する。寮費は2食付き月額5万8000円(予定)で、寮職員の人件費に充てる方針だが、利用状況によっては町が負担する。また、首都圏で開催される生徒募集のための合同説明会に参加する同校教諭や生徒の旅費の補助も継続していく予定という。同校は「町全体で応援してくれてすごくありがたい。地元と一丸となって学校を盛り上げたい」と歓迎する。また、学生寮新設により、これまで通えなかった県内の遠方地域からの入学者も見込む。

 県教委によると、25年度の入学者を全国から募集する県立校は計12校で、うち8校が県外からの入学などを促す一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム(松江市)のプロジェクト「地域みらい留学」に参加している。県教委はこれまで、参加校に対し、学校見学ツアーの実施や学校説明会参加者への交通費補助などの支援を実施。県外からの生徒は年々増加しており、県の調査によると、23年度の受け入れ数は全国1位の島根県(215人)に次いで2位(88人)だった。

愛媛県砥部町が建設を計画している県立松山南高校砥部分校の学生寮の完成予想図=同町提供

 砥部分校も24年度から同プロジェクトに参加し、PR活動をスタートさせた。一方で、県教委は同校について「統合はあくまで猶予」としており、再び存続が危ぶまれる状態になれば、「県立学校振興計画」の後期計画(28~32年度)で統合などが再検討される。同校や町は「存続できるよう、積極的に魅力を発信していく」としている。

 学生寮建設のCFの募集は6月30日まで。現在の寄付額は約200万円で、町は3000万円の目標額達成に向けてさらなる協力を呼びかけている。申し込みはふるさとチョイスのホームページで受け付けている。問い合わせは同町地域振興課(089・962・7250)。【広瀬晃子】

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