シャワーヘッドから出る湯を確かめる自治体職員ら=徳島県北島町鯛浜の徳島県立防災センターで2024年5月10日午後1時6分、植松晃一撮影
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 多くの人にとって、疲れた時の風呂は格別だ。忙しくて湯船につかる時間がなければ、シャワーを浴びるだけでも気分は爽快。衛生面からも、災害などによる非常時には一層重要になる。元日に発生した能登半島地震では、排水をろ過して繰り返し使えるようにするシャワーシステムが被災地に約100セット送られ、避難者を喜ばせた。南海トラフ巨大地震に備える徳島県は、このシャワーシステムの導入を県内自治体に呼び掛けている。

 五月晴れに恵まれた10日午後、徳島県立防災センター(徳島県北島町)に県内18市町の職員ら約50人が集まった。中には遠路はるばる自ら足を運んだ首長の姿も。災害時に備蓄物資を集積する施設の中には、大小二つの青いテントと、腰の高さほどあり複数の管がつながれた白い機器が置かれていた。

 この機器は、自律型の水処理システムを手がけるベンチャー企業「WOTA(ウォータ)」(東京都中央区)が開発したポータブル水再生プラント「WOTA BOX」だ。この日は、3セットを導入した徳島県が、県内自治体を対象に実演説明会を開催した。県職員の説明の後、デモンストレーションが始まると、テント内のシャワーヘッドからお湯が勢いよく出た。参加者らはシャワーに手を伸ばして湯の感触を確かめ、納得したようにうなずく人の姿もあった。

 WOTA BOXは、シャンプーやせっけんを使って体を洗った後の排水を活性炭や逆浸透膜などを組み込んだ6本のフィルターに通し、汚れを取り除いたうえ、深紫外線を照射したり、塩素系消毒剤を投入したりして浄化する。厚生労働省が定める公衆浴場の水質基準を満たす水にまで「再生」される。

 装置やフィルターの作動状況や、フィルター交換までの時間を人工知能(AI)がチェックしてリアルタイムで機器に表示するため、管理しやすいのが特長だ。大人1人がシャワーを浴びると約50リットルの水を使うとされるが、循環・ろ過を通じて一度使った水の98%以上を再利用できる。災害時などに100リットルの水を用意すれば100回程度、繰り返し使え、フィルターを交換すれば利用可能回数はさらに増えるという。

 WOTA BOXの屋外シャワーキットは、能登半島地震が発生した時点で、徳島県1▽松茂町2▽美馬市1▽美波町1――の計5セットが県内自治体にあり、うち3セットが最大震度7を観測した石川県輪島市へ送られて被災者の入浴支援に活用された。能登半島地震の被災地には、WOTA社や他県の自治体などからもシャワーキットが計100セットほど送られ、被災者支援に役立てられた。

 南海トラフ地震に備える徳島県は2024年3月、23年度予算の予備費から約1350万円を充当し、WOTA BOXの本体を動かすための非常用発電機や、灯油式給湯器も含む2セットを追加で調達した。消耗品の交換用フィルターも備蓄を増やし、災害時には県保有分の3セットで計2000回以上シャワーが浴びられるという。

 県の担当者は「実際の災害時に避難所を開設する市町村にも積極的にシステムを導入してほしい」と話す。10日に県が自治体向けに開いた説明会では、県職員が折り畳まれたテントを広げたり、WOTA BOXに管をつないだりして、15分ほどで設営を完了した。設置されたシャワーテントの中に入って広さなどを確かめた自治体職員からは「毛髪はどこにたまるのか?」「照明や、つかまれるような棒はないか?」など、日没後や高齢者による使用も念頭に具体的な運用方法に関する質問が相次いでいた。

 WOTA BOXは愛媛県や高知県の自治体でも導入の動きがあるという。今後、災害時のインフラとしての重要度が高まりそうだ。【植松晃一】

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