河野幸介さん=島袋太輔撮影

 東京都が移住者の呼び込みや定住の促進に力を入れている。首都・東京にありながら、多摩地域や島しょ部といった自然豊かな地域の一部では、人口減少が始まっているからだ。実情や取り組みを知ろうと、都が2023年に新設した専属ポスト、多摩島しょ移住定住促進担当課長の河野幸介さん(44)に尋ねた。【島袋太輔】

 ――大都市の東京で移住や定住に力を入れているのは意外でした。

 ◆東京といえば23区をイメージするかもしれませんが、山村や離島もあって「日本の縮図」と言われています。多摩地域と島しょ部には、地方と変わらない実情があります。東京都の人口は1405万人(20年国勢調査)ですが、都が公表した将来人口推計によると、30年の1424万人をピークに減少に転じる見込みです。

 多摩地域と島しょ部は25年の計435万人がピークで、一部の自治体はすでに人口が減少しています。危機感はありましたが、コロナ禍でテレワークが普及するなど新しい生活様式に注目が集まったことを機に、移住や定住の促進に取り組み始めました。

 ――どのような取り組みですか。

 ◆1年目の22年は認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(千代田区有楽町)に相談窓口を設けました。相談員が移住・定住をサポートし、ポータルサイトを開設して情報を発信しました。23年は市町村と連携し、日帰りや宿泊で移住生活を体験できる無料ツアーを企画。都内の全39市町村で募集し、約600人が参加しました。ツアーをきっかけに移住した人もいます。

 ――ツアーの内容を教えてください。

 ◆東村山市では地域の祭りに参加しました。奥多摩町は林業体験など地域の特色を生かしたツアーでした。多くは子育て世代を対象としていますが、医療の担い手不足に悩む青ケ島村では参加者を看護師に限定しました。地域によって異なるニーズを反映しました。ツアーでは利点だけでなく、交通の便など地域の課題を含めてありのままを知ってもらうよう心がけています。実情を知らないまま移住すると、途中での断念につながりかねません。

 ――多摩と島しょ部の魅力を教えてください。

 ◆多摩地域は自然豊かな環境で子育てができます。多摩川が流れ、奥多摩町や檜原村には大自然があります。交通アクセスも良好です。あきる野市への移住者で23区内に通勤している人がいますが、都心まで1時間程度です。

 東京にある11島9町村の有人離島には、それぞれ特有の歴史や文化があります。あまり知られていませんが、アクセスも良好です。特に伊豆諸島は海路だけでなく空路も整っています。八丈島は羽田空港から1時間弱、伊豆大島は調布飛行場から25分です。離島間を結ぶヘリコプターの定期運航もあります。三宅島への移住者で、村役場で勤務している人がいます。

 ――今後はどこに力を入れますか。

 ◆今年は企業と協力し、旅先で仕事をする「ワーケーション」の体験ツアーを多摩地域と島しょ部で実施します。地域とつながりを持つ「関係人口」の創出が目的です。継続的な関係を構築できれば、地域の課題解決や企業のビジネスチャンスにつながるかもしれません。

記者の一言

 高校卒業後に故郷の沖縄本島を離れ、就職して長野県での勤務を経て、東京生活は4年目を迎えた。まだ、東京の離島を訪れたことはない。機会を見つけて足を運び、故郷で慣れ親しんだ潮風を感じて東京の新たな魅力を発見したい。

河野幸介(かわの・こうすけ)さん

 1980年生まれ。奈良県出身。2005年に入庁し、市町村課などを経て23年4月から現職。21年から2年間は都市長会に出向した。

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