東京商工リサーチが集計した令和5年4月~6年3月の1年間(5年度)の埼玉県内の企業倒産件数は前年度比61件増(20・5%増)の358件と2年連続の増加となり、コロナ禍となった2年度以降で最多件数となった。2年連続で前年度比2桁の増加率となるのは平成19年度~20年度以来となり、足元では倒産件数が急速に増加している様子がうかがえる。

358件の倒産企業を産業別に見ると、建設業が98件で最も多く、前年度の55件から大きく増加した。そのほか、サービス業他が77件(前年比5件増)、製造業が66件(前年比15件増)と構成比率が高かった。円安基調が続く中で資材価格や仕入れコストが上昇したほか、人件費や外注費の増加も加わった一方、価格転嫁が進まずに資金繰りに影響を及ぼしたとみられる。

全国的に見ても倒産は高水準で推移しており、同期間の全国企業倒産件数は9053件と9年ぶりに9千件台に乗せた。前年度の6880件から2173件(31・5%増)と急速に増加しており、中小零細から中堅規模にも企業倒産が広がっている。

円安による為替差益、株価上昇などを背景に、大手企業や輸出産業の業績は堅調だが、中小企業にとっては新年度も厳しい環境が続きそうだ。為替相場は1ドル=154円台と約34年ぶりの円安水準にあり、原材料や資材、エネルギー価格は当面、高止まりの状況が続くとみられる。また、4月から建設業、運送業において、これまで適用が猶予されてきた時間外労働時間の上限規制がはじまった。いわゆる「2024年問題」では建設業や運送業における人件費増にとどまらず、幅広い業界で経費負担の増加が予想される。5年度では「物価高」を理由とした倒産は全国で684件発生し、前年度比で73・6%増と急増した。「人手不足」関連倒産も191件と約2・4倍増加しており、コストアップ分の価格転嫁が遅れていることが浮き彫りとなっている。大手企業では満額回答が相次ぎ、賃上げ機運が高まっており、人材確保のためにも賃上げが必要との認識は中小企業にも浸透している。しかし、財源の乏しい企業にとって人件費の上昇は死活問題で、人件費も含めた価格転嫁が必要不可欠となるが、下請け色の強い中小企業が単独で取り組むには荷が重く、行政の細やかな支援も求められる。(東京商工リサーチ埼玉支店長・佐々木博司)

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