米国ではアプリの利用禁止をめぐる法案が議会で取り沙汰されるなど、その絶大な人気によって自らの出自やその影響力にも向き合わされるTikTok。最高経営責任者の周受資は、はたしてどこに導こうとしているのか? 『WIRED』US版のカバーストーリー。

インタビューに入る前、TikTokの最高経営責任者(CEO)周受資(ショウ・ジ・チュウ)は騒がしくて申し訳ないと言った。その日、夕方のステージに向けてゲストたちが度々サウンドチェックを行なっていたのだ。ペソ・プルマはオープニングナンバーのリハーサルを、オフセットはバッキング・トラックに合わせてアドリブをしていた。会場の公園に入るときにはワン・ダイレクションのファンの群を通り過ぎた(ニール・ホーランを25ドルで観られるなんてお得だ)。世界で最も影響力をもつソーシャルメディアアプリのトップに、こういう場所で話を聞くことになるとは思わなかったが、TikTok初の音楽フェスの当日を除いて、周のスケジュールに空きはなさそうだった。アリゾナ州メサ、シカゴ・カブスのトレーニング施設で開かれる、二部構成のフェスのチケットは完売していた。

TikTokにとって場所が重要でないことがわかれば、イベントの開催地をここに決めた意味が理解できる。同社にとって、大事なのは数字のみ。フェスの模様はアプリで無料独占配信される予定になっていた(その後ハイライトがDisney+とHuluで公開される)。今夜、スマートフォンのスクリーン左上に表示される数字が、このイベントの成功/失敗を示す最終的な指標になるだろう。

今日ここに来たのは、周がこれまで自分の言葉で自らの気持ちを語ったことがないんじゃないかと思ったからだ。2021年半ばにTikTokのCEOになったとき、彼はほとんど注目を集めなかった。TikTokの公式アカウントさえ、CEO就任を動画で発表しなかった。そんな周が世間の関心を広く集めたのは、23年3月にワシントンDCで開かれた議会公聴会で質問攻めにあったときだ。「大騒ぎでしたよ」。ある社員は匿名を条件にそう語った。「議員たちは彼に話すらさせなかったんですから。『おまえは中国のスパイだ。叩きのめしてやる』みたいな態度で」

あからさまな反中嫌悪

これは少々大げさだが、そういうムードがみじんもないとは言い切れない。以下に挙げる3つの事柄すべてが真実の可能性があるからだ。第一に、中国政府は市民を公然と監視しているので、多くの国々、とりわけ22年末に親会社の字節跳動(バイトダンス)によるジャーナリストの不正監視が発覚した米国で、中国発祥のアプリが警戒の対象になるのはもっともであること。第二に、人々は長年Uberやフェイスブック(両社ともジャーナリストのデータを不正に追跡していたと報じられた)などの企業に多くのデータをわたしており、大量のユーザーデータを集めているいかなる企業も厳重な精査を受けるべきであること。第三に、あからさまな反中嫌悪が確実に米国の政治戦略の一部になっていること。

TikTokはこれまで、最初のふたつの問題に対処していることをアピールしてきた。公聴会で周は、同社が保持する米国のデータを米国内のサーバーにすべて移すと約束したが、TikTokの社員によれば一部の米国のデータは未だに親会社と共有されているという。ひいき目に見ても、周の約束が完全に実行されるのに時間がかかっている。3つめの問題はTikTokがどうこうできるものではない。例えば「モンタナ州の人々の個人情報を中国共産党から保護する」ために州内で同アプリの利用を禁止したモンタナ州知事から見て十分なほどに、TikTokアプリが「中国に無関係」なものになるとは想像しにくい(その後連邦地裁は禁止法の施行の仮差し止めを命じた)。

その気性からするに、周はTikTokをさまざまな国で好ましく思ってもらうのにうってつけの人物のようだ。「テック業界人」にありがちな不快な押しつけがましさがなく、むしろ永遠の町長選立候補者のような庶民的な雰囲気を醸し出している。ハンサムなうえに、どんな人の話でも誠実に聞いてくれそうだ。ゴシップを賑わすラッパーのカーディ・Bは知っていても、イベントに着ていくブレザーの仮縫いの白糸を事前に取っておくなんてことには気が回らないような、チャーミングなイメージがある。

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