愛用してきた家具が引っ越した新居に合わず、使えるのに捨ててしまった。そんな罪悪感をきっかけに、クラス(目黒区)社長の久保裕丈さん(42)は家具や家電をレンタルする定額利用(サブスクリプション)サービスを生みだした。暮らし方に合わせて柔軟にインテリアを変えられ、廃棄物を減らせる。「このサービスが広まれば社会が良くなる」と語る。(押川恵理子)

個室ブースを背に立ち「ブースはオフィスでの長期利用が多い」と話す久保社長=東京都目黒区で

◆理屈よりも自由に

 久保さんは東京大、東京大大学院でプラズマ材料工学を研究し、事業や経営に関心を持ちコンサルティング業界へ。コンサル時代はビジネスを市場規模や競合環境など理屈で分析していたが、2018年のクラス創業は理屈よりも「自分に必要な物をもっと自由に使いたい」との思いで動いた。

リモート会議などに使う応接セットに座り事業内容について話す久保裕丈社長=東京都目黒区で

◆亡き祖父母が喜んでくれる商売

 根底には、両親が共働きの中で自分の世話をしてくれた亡き祖父母への感謝がある。「じいちゃん、ばあちゃんの墓の前で手を合わせたとき、一番喜んでくれる商売がいいと思った。それは人の生活、社会が良くなること」

循環に適したプライベートブランドの家具「CIRCLE」を置いた部屋のインテリア例。この家具は月額レンタル料金1万円程度でそろう=「クラス」提供

 サービス「CLAS」は東京都など南関東や関西で展開し、20代後半から30代までの1人暮らし世帯を中心に利用が伸びている。登録会員数は今年3月時点で個人が24万人、法人が2200社に。取扱商品は昨年末時点で個人向けが約2000品目、法人向けが約4000品目に上る。長く使いやすく、洗練されたデザインの家具などを提供しており、廃棄処分はほぼないという。環境省の22年度調査では商品売り切りのビジネスと比べ、粗大ごみの排出量は38%削減、二酸化炭素(CO2)排出量は36%の削減の効果が見込まれた。  このサービスは仕入れなど初期投資が高額である上に、業務が商品の仕入れやクリーニング(洗浄)、リペア(修繕)、物流など多岐にわたる。難易度の高さゆえに投資家の反応は当初厳しく、資金調達に苦労した。実績を積み上げるうち、反応は好転した。

◆課題から逃げず頑張る

 事業の成長は「複雑な問いから逃げずに頑張ること」に尽きるという。例えば、事業の収益性に大きく関わる在庫の稼働率を上げるためにクリーニング、リペアの効率を高めた。それぞれの工程を30ほどに分け、全工程の標準時間を設定。その時間を秒単位で削る努力を現場の責任者と重ねた。「このサービスがあって良かった」という客の声が仕事の喜びだ。「グーグルやアマゾンのサービスのように、社会インフラにしていきたい」と突き進む。 

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