「盤石な個人向けのビジネスに加え、今後拡大が見込める法人領域などでも成長機会を追求していく」
楽天グループは9月30日、傘下の楽天カードがみずほフィナンシャルグループ(FG)と資本業務提携の検討に入ったことを公表し、狙いをこう説明した。みずほFGから楽天カードが出資を受ける形で、金額や比率について詰めの協議を進め、2024年内の合意を目指すという。楽天カードの傘下で保険業を担う楽天インシュアランスホールディングスは、みずほFGとの提携対象から外れ、楽天Gの完全子会社に切り替わる予定だ。
楽天GはみずほFGから資金を調達しつつ、みずほFGの顧客基盤を生かした金融事業の強化が期待できる。楽天カードのカード発行枚数は3000万枚を突破したが、個人向け市場は足元で飽和状態に近づいているとされる。岡三証券の奥村裕介アナリストは「楽天カードは規模が拡大した分、トップライン(売上高)の成長率が伸び悩んでいる。みずほFGが抱える法人のような新しい顧客基盤にリーチする利点は大きい」と指摘する。
楽天Gは、みずほFGの出資後も楽天カードを連結子会社のまま抱える考えだ。すなわち、出資比率は最大で49%となる。奥村氏は「楽天カードの企業価値は24年度でおよそ5000億円強に上る。仮に49%まで売り出す場合、利益の流出を打ち返せるほどのシナジー(相乗効果)が楽天Gに生まれるのは難しい」と分析する。
それでも楽天Gが踏み込んだのは、資金繰りのさらなる安定化を図りたいからだろう。業績の足を引っ張ってきたモバイル事業の赤字幅は縮小し始め、8月には通信基地局の一部などの保有資産を売却して借り直す「セール・アンド・リースバック」方式で最大3000億円を調達することも発表した。低く抑えているモバイル設備投資の拡大や高金利の社債の借り換えなどで、依然として資金は必要だが、「焦って調達を迫られるほどに逼迫していない」(奥村氏)のが現状だ。
みずほ側のキーマン
電子商取引(EC)サイトとともに、楽天ポイントを軸に利用者に自社サービスの利用を促す「楽天経済圏」。その屋台骨を担うカード事業への、みずほFGからの出資受け入れ検討の本格着手に合わせて、楽天Gはこれまで計画していた金融事業の再編を見送った。
これまでは楽天銀行を中心に楽天カードや楽天証券などを1つのグループにまとめ、金融事業の収益力を高める計画だった。当初は24年10月の再編を予定していたが、検討に時間を要するとして25年1月にいったん延期。今回のみずほFGからの出資検討を受け、取りやめることになった。
みずほFGは楽天証券に49%を出資している。みずほ証券は楽天証券と新たに立ち上げた共同出資会社を通じ、楽天証券の顧客などを対象にオンラインや対面で資産運用相談に応じるサービスを今年4月に始めた。楽天Gとタッグを組むメリットを直接感じる立場にあるみずほ証券の浜本吉郎社長は、みずほFGの中でも「楽天Gとの連携を深化させる旗振り役」(みずほ銀行幹部)という位置付けだ。
楽天Gが金融子会社の再編を断念したのには、「東証プライムに上場している楽天銀行の傘下にカードや証券を収めるという考えに、金融庁側がガバナンスの観点で難色を示した」(楽天G幹部)との事情があるという。
楽天Gによる金融事業の再編について、浜本氏は9月20日、日経ビジネスの取材に「アドバイスをしている。いろいろなアイデアが飛んでいる」と明かしていた。浜本氏らを通す形で、みずほ側も楽天Gの金融事業再編が難しい状況に置かれていたことを把握していたと見られる。
みずほFGには他のメガバンクグループのような有力なカード会社がなく、19年にはクレディセゾンとの包括提携も解消していた。三井住友FGがカード事業を中核に個人向け総合金融サービス「Olive(オリーブ)」を打ち出しており、三菱UFJFGも三菱UFJニコスを傘下に持つ。みずほFGは、メガバンクの中でもカード事業関連の成長戦略が問われる状況にあった。それだけに、みずほFGの意気込みがにじむ。
あるみずほFG幹部は以前、「楽天カードに出資したい気持ちはあるが、のれん代が高すぎる」と語っていた。みずほFGにとって楽天カードへの出資は大きな事業シナジーと時間を買う効果が見込める。今後の交渉で価格面でどこまで折り合いを付けられるかが焦点となりそうだ。
みずほFGが国内トップを快走する楽天カードを取り込むことに成功すれば、金融業界の勢力図に大きな影響を与えることになる。
(日経ビジネス 鳴海崇、杉山翔吾)
[日経ビジネス電子版 2024年10月7日の記事を再構成]
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