消費者の信用力を指数化した「信用スコア」を閲覧できるサービスが日本で始まります。手掛けるのは信用情報機関のシー・アイ・シー(CIC、東京・新宿)です。これまでも銀行などの間で独自のスコアを活用する動きはありましたが、国の指定機関の参入は初めてです。「国内標準」とも言える信用スコアの公開は、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか。

8億3000万件のデータを活用

CICは11月28日から新サービス「クレジット・ガイダンス」を始めます。クレジットカードの利用状況や借入残高などの情報から、個人の信用力を200〜800点で算出し、信用力が高いほど数値が大きくなります。

自分のスコアを確認するにはホームページでの申請手続きが必要です。開示方法はインターネットか郵送かを選べます。CICは今も消費者が開示請求すれば、金融機関ごとの契約内容や支払い状況といった取引履歴を開示しています。28日以降は信用スコアと算出理由も提供します。開示手数料はネットが500円、郵送が1500円です。

CICは800社超の加盟社が登録した8億3000万件の情報をもとにスコアを算出します。年齢や職業などは考慮せず契約内容や返済状況といった金融機関との取引履歴のみで算出します。CICは「より客観的な数値を算出できる」としています。

数値の算出理由は最大4つ記載されます。例えば「延滞がないため指数にプラスの影響を与えた」といった具合です。CICが個別のスコアそのものを「良い」「悪い」などと評価するわけではありませんが、自分のスコアが他と比べてどうなのか、おおよその位置が一目で分かるよう専用サイトで分布図も公開します。

なぜ信用スコアを開示するのか

CICはなぜスコアを算出し、開示することにしたのでしょうか。理由は主に2つあります。

ひとつは消費者に自分の信用度を意識してもらうためです。米国では「FICO(ファイコ)」という有名なスコアがあります。融資のほか、携帯電話や賃貸の契約時にも使われています。海外の信用情報に詳しいインフキュリオン コンサルティングの森岡剛氏によると、「米国では個人の『人となり』を測る指標のひとつ」と位置づけられているそうです。米国の人々は普段からスコアを意識して金融サービスを使っているといいます。

日本でも金融機関が信用情報をもとに与信判断をしている点は同じです。ただ、米国と比べて日常生活で自分の信用情報を活用する場面が少なく、指数化もされていないため、消費者にとって身近なものではありませんでした。信用度を「見える化」すれば、今よりも信用度を意識して生活する人が増えるかもしれません。その結果、CICは消費者の借りすぎなどを抑制し、多重債務など行動の改善に役立つとみています。

もうひとつは、CICに加盟するクレジットカード会社などの与信精度を高めるためです。経験や歴史のある金融機関でもお金を貸す相手の信用力を正確に評価できるとは限りません。本来はお金を貸せる人に貸さなかったり、貸してはいけない人に過度に貸してしまったりするケースもあります。CICが目安となるスコアを示すことで、加盟社が消費者の信用力をより正確に評価し、適切な金額を融資できるようになるとの期待があります。

日本に信用スコアは根づくか

日本ではCIC以外にも消費者向けにスコアを算出している事業者があります。

LINE Credit(ラインクレジット、東京・品川)の「LINEスコア」は年齢や職業など15の質問結果と、グループが展開する各サービスの利用状況をもとに100〜1000点で算出するサービスです。スコアが高いほど、同社が手掛ける融資サービスの貸付利率や限度額が有利になる仕組みで、約800万人が登録しています。

一方、みずほ銀行とソフトバンクの共同出資会社のJ.Score(ジェイスコア、東京・港)は23年1月にスコアリング事業から撤退しました。150以上の質問に答えると人工知能(AI)がスコアをはじき、無担保融資を受けられる仕組みでしたが、利用者が伸び悩みました。

消費者は11月28日から、自分の信用スコアが閲覧できるようになる(写真はCICが現在消費者に開示している取引記録のサンプル)

CICのスコア公開で今後、与信の精度が高まるなどの効果が期待できる一方、課題もありそうです。カードを持たない人やお金を借りたことのない人にはスコアがつきません。今後スコアが普及した場合、スコアを持たない人などをどう与信していくのか。スコアだけに依存しない与信のあり方も同時に研究し、消費者にとって不利益にならない環境づくりが求められます。

(古田翔悟)

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