東京メトロは23日、東京証券取引所プライム市場に株式上場した。取引開始時の初値は1630円で、売り出し価格を35.8%上回った。初日は1739円で終え、時価総額は1兆円を超えた。2018年のソフトバンク以来の大型上場となる。都内中心の9路線の地下鉄網を生かした鉄道事業が収益の9割を占めているが、今後は資本業務提携などを通じて事業の多角化を図る。

東京メトロの初値が表示されたモニター=23日、東京都中央区で(中村千春撮影)

◆小池百合子都知事「利便性の充実、図りたい」

 東京メトロの株式5億8100万株のうち国が53.4%、東京都が46.6%を保有していたが、上場に伴い国26.7%、都23.3%となる。国の売却分は東日本大震災の復興債の償還に充当する。小池百合子都知事は「利用者の利便性、さまざまな観点からの充実を図りたい」と話した。  今回は株の売り出しのみで、資金調達の新株は発行していない。山村明義社長は会見で「上場を契機として、不動産や流通を強化する。パートナーとの協業が効果を発揮する」と述べた。経営の透明性向上や意思決定の迅速化のほか、人材確保にも期待を示した。今後は駅を核とした不動産開発や都市ツーリズムなど幅広い事業の拡大を目指す。  都営地下鉄との経営一元化については「問題が多い」との姿勢だ。ただ、すでに券売機や多言語放送、エレベーター整備などを共通化していることから、山村社長は「利用者が困ることがないよう、テーマを決めてサービスを共通化していく」との考えを示した。 (白山泉、奥野斐)    ◇

◆防衛増税のあおり、残るメトロ株の売却めどたたず

 23日に上場した東京メトロの株式の売却で国が得た約1800億円は、東日本大震災の復興事業のために発行した復興債(借金)の返済に充てられる。ただ復興財源確保には残り26%超の株売却も予定されており、そのメドはたっていない。ほかの復興財源では、主力である所得税増税の一部が防衛増税に事実上転用され、課税期間が最大13年延長される見込み。その確保にさまざまな課題を残す。  東京メトロは2004年に設立され、全株式を売却し完全民営化する方針が決まっている。東日本大震災後の11年には、国は売却収入を復興債の返済に充てる方針を定めた。一方、国土交通相の諮問会議は答申で、東京メトロが事業主体となる地下鉄の延伸整備が終わるまでは「国と都が株式の2分の1を保有することが適切」と指摘。今回は答申に基づいて、国と都の東京メトロ株売却は、それぞれ所有株式の半分にとどまった。  延伸計画は、有楽町線(豊洲—住吉間)と南北線(白金高輪—品川間)で、完成は30年代半ばとされている。山村明義社長は会見で「建設期間中は2分の1の保有が続く」との認識を示した上で、残る株式の売却については「国と都の協議の状況を注視する」と述べるにとどまった。  今回の国の売却収入は、郵政株の売却でこれまでに4兆円近い財源を獲得したのに比べると小粒だが、「復興財源としては重要だ」(政府関係者)。この先、企業価値が高まらなければ、残る株式を売却した際に復興財源が減りかねない。  東日本大震災の復旧・復興に必要な事業費は32兆9000億円で、事業を迅速に進めるために10兆円を超える国の復興債が発行された。返済には東京メトロのように政府保有株の売却収入のほか、臨時で所得税に上乗せされている復興特別所得税などが充てられる。  政府は22年、復興所得税の一部を、総額43兆円の防衛費拡大の財源に充てる方針を決めた。そのため、復興所得税の課税期間は当初予定の37年から延長される見通しだ。防衛費増税の開始時期はいまだ決まっていないが、復興財源の確保が遅れる公算だ。(白山泉) 

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