【リュブリャナ=南毅郎】欧州中央銀行(ECB)は17日に開いた理事会で政策金利を0.25%引き下げると決めた。利下げは9月から2会合連続で、金利引き下げ幅は同じだ。景気失速の懸念からインフレ鈍化が想定より強まる恐れがあり、利下げペースの加速が適切と判断した。
公表した声明文では「インフレ鈍化は順調に進んでいる」との認識を示した。その上で「物価見通しは最近の経済指標の下振れにも影響を受ける」とし、景気減速がインフレ鈍化を強めるリスクに言及した。当面の利下げペースは「データ次第」との説明は維持した。
市場は少なくとも2025年春まで利下げが続くとみている。今回の理事会はスロベニア中銀が主催し、首都リュブリャナの郊外で開いた。ECBは年に1度、本部があるドイツ・フランクフルト以外の都市で理事会を開催している。
ECBは6月に4年9カ月ぶりとなる利下げを開始した。7月は政策金利を据え置いた後、9月に追加利下げに動いた。今回の利下げは市場参加者も確実視していた。政策金利の一つで市場が注目する中銀預金金利を23日から3.25%に引き下げる。
ラガルド総裁は9月下旬の演説で、最近の物価指標は「インフレ率が速やかに目標に戻るという我々の確信を強めるものだ」との認識を示していた。10月会合で「これを考慮する」とも語り、市場で連続利下げの示唆との受け止めが広がった。
ECBが連続利下げに踏み切る背景には、インフレの鈍化がある。消費者物価の上昇率は2022年に前年同月比で一時10%を超えていたが、9月は改定値で1.7%と3年3カ月ぶりに2%を下回った。7〜9月期の物価上昇率は単純平均で2.2%と、ECBが想定していた2.3%を下回った。
追加利下げの時期は当初、次回の12月会合が有力とみられていた。四半期に1度の景気・物価見通しを更新する重要な会合にあたり、金融緩和に慎重なタカ派メンバーを中心に緩やかなペースの利下げに支持が集まっていた。
景気動向への不安が急速に高まったこともあり、理事会メンバーは連続利下げが適切との判断に傾いた。ラガルド氏はインフレ抑制に自信を示すものの、景気持ち直しの遅れから利下げの加速を迫られた側面も大きい。
特に深刻なのがドイツとフランスの失速だ。ユーロ圏の域内総生産(GDP)は両国だけで5割を占める。企業の景況感を映す購買担当者景気指数(PMI)は、9月に独仏そろって好不況の目安である50を下回った。
ドイツはインフレ鈍化でも消費者の倹約志向が解けない。大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)が11日公表したアンケート調査で「必要最低限のものしか買わない」との回答は全体の37%に達した。外食を控えたりスポーツジムを退会したりして節約する動きが出ており、ベルリン市内のスーパーでは特売も目立ってきた。
さらに「生活状況が3年以内に悪化する」と答えたのは36%で「改善する」の24%を上回った。設備投資や生産も鈍く、景気不安が消費者の節約志向に拍車をかける悪循環にある。
ドイツ経済は24年も2年連続でマイナス成長に陥る見通しだ。2年連続になれば長引く景気低迷から「欧州の病人」と呼ばれた02〜03年以来だ。産業空洞化への懸念も高まっており、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は製造コストが割高なドイツ国内工場の閉鎖を検討する。
フランスは今夏にパリ五輪の特需に期待が高まったものの、ドイツと同様に個人消費は停滞気味だ。仏中銀によると8月の小売売上高は前月比0.2%減に沈み、新車や家電製品の売れ行きが鈍かった。3カ月で比較してもゼロ%と横ばいで苦戦する。
財政出動による景気浮揚も現段階では見込めない。新型コロナウイルス禍以降の財政支出を圧縮する必要がある半面、ウクライナへの支援やロシアの脅威に備えた自国の防衛強化から財政余力は限られつつある。
ドイツ政府は財政健全度が高いものの、24年度予算では財政赤字を一定の規模に抑える「債務ブレーキ」を5年ぶりに復活させた。25年度も財政規律を堅持する方針だ。フランス政府は10日発表した25年度予算案で、雇用支援の縮小や電気自動車(EV)購入支援の見直しを盛り込んだ歳出抑制を示した。
財政引き締めが経済成長の重荷になり、景気不安から極右などのポピュリズム(大衆迎合主義)政党が勢いを増している。
先行きは11月の米大統領選もECBにとって波乱要因だ。共和党のトランプ前大統領は輸入関税の引き上げに言及しており、輸出が屋台骨のドイツは米中の貿易摩擦に巻き込まれる恐れがある。
ドイツ銀行のジョージ・サラベロス氏は「中国を巻き込んだ世界的な貿易戦争に発展すればECBは政策金利を緩和的な水準まで引き下げざるを得なくなる」と指摘する。外国為替市場でユーロ安が進み、足元の1ユーロ=1.08ドル台から1ドルの等価付近まで下落するとの見方を示す。
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