食料品やエネルギーを中心とした物価高が収まる気配を見せない。家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は、今年の直近で42年ぶりに28%まで上昇した。石破茂首相は物価高への対応で、給付金の支給など前政権の路線を引き継ぐとみられるが、巨額の税金を投入し続ける「出口なき政策」に陥るとの懸念は根強い。衆院選での争点になりそうだ。(砂本紅年、鈴木太郎)

◆アキダイ社長「こんな値上がりは初めて」

食品の値上がりについて説明するアキダイの秋葉弘道社長

 「食べ盛りの中学、高校の息子2人がいるので、節約するには限度がある」。生鮮食品などを売る東京都練馬区のアキダイ関町本店で買い物をしていた区内の50代主婦は話す。「安い食材がないのはきつい。コメまで高くなってしまうとは」とため息をついた。  8カ月の子を抱えた育児休業中の女性会社員(28)も「なるべく特売などのタイミングで買うようにしている」と明かす。  食料品価格の上昇は、輸入物価を押し上げる円安に伴い、肥料や飼料、燃料が高騰したことなどが影響した。アキダイの秋葉弘道社長(56)は「これほど急激な値上げは初めて。政府主導で進められた円安が火種になり、庶民の生活を圧迫している」と厳しい表情を浮かべた。

◆これから寒くなると電気・ガスも…

値上げが続く食品スーパー=東京都練馬区で(川上智世撮影)

  特にコメの値上がりが激しく、9月の東京都区部の消費者物価指数(中旬速報値、2020年=100)で、コメ類は前年同月比4割以上も上がった。数値が高いほど生活水準が低くなったことを示す指標ともいわれるエンゲル係数は上昇傾向が続き、今年は1~8月の平均で28.1%だ。  帝国データバンクによると、10月の値上げ食品は今年最多の2911品目に上る。11、12月の値上げ予定を含めると、今年の累計品目数は1万2401品目に達する見込みで、物価高は今後も続きそうだ。今年結婚したばかりという、ともに33歳の夫婦は「これから寒くなると電気、ガス代が心配」と話した。

◆根本的な解決策は利上げだが…

 石破首相は低所得者世帯向けの給付金支給や、自治体向けの交付金拡充を中心に物価高対策を検討している。岸田政権が推進した電気、ガス料金やガソリン代の補助については、近く終了する予定だったが、延長に含みを残した。延長に次ぐ延長で既に11兆円の税金を投入しており、出口が見えない。類似の税金投入策を掲げる野党もいる。  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「給付金や補助金は『やっている感』は出せるが、効果は限定的」と指摘。物価高の食料、エネルギーの大半は、円安により割高となる輸入品のため「根本的な解決策は(円安を是正する)日銀の利上げとなる。ただ利上げは景気を冷やすため、企業収益の増加や賃上げ促進策による景気浮上が求められる」と話した。

 エンゲル係数 家計の消費支出に占める食費の割合。ドイツの統計学者エンゲルが19世紀、収入が少ない世帯ほど消費に占める食費の割合が高くなる傾向を論文で発表。生活水準の高低を表す指標として広まった。生活の豊かさを食に求めるようになり、係数の高さが必ずしも生活水準の低下を示すわけではないという指摘もある。日本では総務省が家計調査で算出。同調査は1999年までは農林漁業世帯は対象に含まれていない。




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