金融庁は10日、有価証券報告書でサステナビリティー情報の開示を企業に求める制度について話し合う金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会を開いた。サプライチェーン全体の排出量(スコープ3)の情報を開示する場合、自社のサプライチェーン(供給網)上の企業から入手した情報が間違っていても、開示する企業側が虚偽記載の責任を負わないようガイドラインを改正する方針だ。
東京証券取引所のプライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業にサステナビリティー情報の開示が2027年3月期から義務づけられる見通しだ。その後、1兆円以上、5000億円以上の企業に順次広げる方向だ。作業部会では、開示義務化に向けて開示方法や開示情報への保証のあり方について議論した。
温暖化ガス排出量については、企業からの直接排出(スコープ1)や自社工場などでのエネルギー使用に伴う間接排出(スコープ2)、原料調達や製品利用などサプライチェーン全体の排出量(スコープ3)の開示が必要になる。
統制が効きにくい第三者が提出する「スコープ3」の情報の正確性を担保するのは難しい。情報が間違っていた際に金融商品取引法上の行政処分などの対象となるのであれば、企業の開示姿勢が萎縮しかねない。
委員からはスコープ3の開示について「企業サイドの心理的ハードルが高い。サステナビリティー開示の一番のネックは虚偽記載だ」との指摘もあった。
現行の開示ガイドラインでは、経営方針などの将来情報が事後的に誤りだと発覚した場合でも、開示内容の合理性が認められるなどの条件を満たせば、虚偽記載の責任は問われない。セーフハーバー・ルール(安全港の規定)の対象を第三者から提供を受けた情報などに拡大することで、スコープ3の開示を後押しする方針だ。
サステナ情報の開示が義務化される翌年から、開示情報に対して監査法人など第三者による保証を求める制度の適用も義務化される見通しだ。保証実務を実施する主体については、監査法人以外の業者も認める案を示した。
金融庁によると、スコープ1とスコープ2を開示している時価総額3兆円以上の企業のうち、監査法人系の業者が保証を行っているのが44%、その他が56%だった。1兆円以上の企業ではその他業者が52%、5000億円以上の企業では57%とその他業者が広く活用されている実態がある。
委員からは「実務の観点から監査法人に限定しないのは賛同するが、保証実務の精度を担保する資格制度などが必要」といった指摘が出た。
保証制度導入時の対象をスコープ1とスコープ2に限定することも検討した。委員からは「諸外国と比べて保証の範囲で見劣りする」との意見もあった。オーストラリアでは、温暖化ガスの排出量以外にも、ガバナンスや戦略などの定性的な情報も保証対象となっている。
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