◆時給は上がれど「最賃低賃金の上昇に合わせて20円、30円」
川崎市の飲食店でアルバイトとして働く1人暮らしの女性(71)は、神奈川県の最賃が1162円に上がった今月、時給が「ようやく」1200円に達する。「最賃に時給がずっと張り付いている」とこぼす。 これまで時給は最賃上昇に合わせて20円、30円と少しずつ上乗せされてきた。あくまで「最賃に抜かされない程度」だった。生活が苦しいのは自分がぜいたくだからと言い聞かせてきたが、次第に「日本の賃金は低すぎる」と疑問を持つようになった。◆なぜ普通に暮らすのが大変なのか
きっかけはコロナ禍。飲食店が休業し、仕事の収入がゼロになった。そもそも低賃金で蓄えはなく、年金だけでは暮らせない。電気代などの請求書は容赦なく届き、食べ物は尽きた。追い詰められて「自殺が頭をよぎった」。「時給が物価高に追いついていない」と語る女性
外部の労働組合の助言で生活保護を申請し、一息ついた。店が再開しコロナ禍前に戻ると、月の手取りは賃金の7万~8万円に、年金と生活保護費を加えて15万円弱に。「これでどうにか暮らせる」と生活が落ち着き始めたころに見舞われたのが物価高だった。 夏冬の電気代は1万円を超える月も。食料も特売品を求め店10軒は回り、物価の伸びに収入が追いついていないと実感した。コロナにせよ物価高にせよ、何かあれば生活はすぐ窮する。「なぜ普通に暮らすのがこんなに大変なのか」。疑問は膨らむ一方だった。◆80歳超えても働き続けなければ…
石破首相は最賃を全国平均1500円に引き上げる目標を、2030年代半ばから2020年代に前倒しすると表明した。8日の国会でも「高い目標に向かってたゆまぬ努力を続ける」と述べた。でも「遅すぎるし、低すぎる」と女性。若いころにある程度余裕を持って暮らせたのは、複数の仕事を掛け持って長時間働いたからだった。70歳を超え、最賃にへばりついた賃金がいかに低いかを思い知らされている。 体調を崩して昨年春、週5日の仕事を3日に減らした。「もう体がもたない」と感じていた。働く時間が減ればますます貯蓄はできず、「また何か起きたら」と時折不安にさいなまれる。最近、同世代の職場の仲間とこんな話をよくするようになった。「80歳を超えても働き続ける。それじゃなきゃ暮らせない」歴代政権の最低賃金に対する方針 最賃引き上げは第1次安倍政権や民主党(当時)政権が積極的に進め、第2次安倍政権で加速した。安倍晋三首相は2015年11月、年率3%程度増加させて全国加重平均1000円を目指す目標を表明。2016年度以降ほぼ毎年、3%以上の引き上げが続いた。岸田文雄首相は、2023年の最賃審議会で1000円達成の議論を求め、2023年度は前年度比4.47%増の1004円と初めて1000円を突破。岸田氏は2023年8月に「2030年代半ばまでに全国平均1500円」と次の目標を表明した。2024年の経済財政運営の指針「骨太方針」には、目標を「より早く達成できるよう」取り組むと明記。石破茂首相も就任早々に前倒し方針を表明した。
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