文部科学省が所管する日本学生支援機構(JASSO)の奨学金の金利が上がっている。日銀による異次元の金融緩和の脱却で、奨学金の金利を左右する長期金利が上昇しているためだ。一方、授業料の値上げを決めた東大をはじめとして大学の学費は上昇傾向で、教育費の負担はどんどん重くなりそうだ。(白山泉)

◆研究に専念するためアルバイトせず、奨学金頼み

 東京都内に住む20代後半の大学院生の女性は「親に負担をかけられず、学費と生活費を維持するため満額借りている」と将来の返済に不安がある。シングルマザーの家庭で育ち、研究に専念するためアルバイトはしていない。借りているのはJASSOの第一種奨学金と第二種で、合わせて月20万円以上になる。

日本学生支援機構=東京都新宿区で(資料写真)

 返済が不要な給付型奨学金については「枠が限られていて、成績など要件が厳しい」と、広く使いやすい制度ではないと主張する。「自分の大学も学費を値上げするのではないかと不安もある」と心境を語る。

◆給付型は要件が厳しく、貸与型が多数

  日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除。金融政策を正常化しようとしており、長く0%前後で推移した長期金利が一時は1%まで上昇した。これに伴い、2020年3月に0.07%まで下がっていた固定方式の貸与利率は徐々に上昇し、今年4月以降は1%を超えている。  JASSOの奨学金は22年度には、大学や短大、大学院などの学生の32.6%にあたる119万人が利用した。給付型奨学金は、17年から22年までに給付人数が約2000人から約34万人に増えたものの、政府の計画(約60万人)は下回る。 第一種は約47万人、第二種は約67万人と貸与型が多数を占める。貸与額は有利子の第二種が5754億円、第一種は2723億円で、給付型の1507億円を大きく上回る。  給付型奨学金の要件も緩和されてきているが、現状「多子世帯や私立理工農系で年収600万円以下」など厳しいままだ。   若者の労働問題に詳しいNPO法人POSSEの岩橋誠氏は「エッセンシャルワーカーなどは給料が上がらない人が多い」として、残債免除などの救済策の検討を求めている。これに対し、文科省の担当者は「返還金が次世代の原資になる。過去に返還した人との公平性の観点からも難しい」と話している。   ◇   ◇

◆2021年入学・月6万円貸与なら、返済24万円増試算

 奨学金の金利は融資の開始時ではなく、卒業時など貸与が終了する時の利率が適用される。在学中の学生は入学時に想定していた返済総額に比べ、金利上昇に伴い負担は増えそうだ。  2021年4月に入学した人では、当時は日銀のマイナス金利で奨学金の金利も固定方式で0.268%と低かった。それが、日銀の利上げに伴い、直近の24年8月には1.21%まで上昇している。

3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除した日本銀行本店(資料写真)

 JASSOの返済シミュレーションで実際の返済額を試算した。月額6万円の貸与を4年間受け、返済期間16年の想定で、21年4月当時の利率に当てはめると、返済総額は294万6199円(月返済額1万5344円)だった。ただ直近の金利だと、318万6222円(同1万6595円)で、すでに返済総額が約24万円増えている。卒業時の金利が現在より上がっていれば、実際の返済負担はもっと多くなる。   ◇   ◇   ◇

◆返済不要の給付型奨学金「種類も金額も増えている」

 金利上昇に伴い、有利子奨学金の返済負担が増えている。大学の学費と生活費も上昇傾向で、教育費の負担増を抑える仕組みの整備は急務だ。こうした中、企業独自の給付型奨学金や、自治体が奨学金の返済を肩代わりする制度なども出つつあるが、利用には注意も必要だという。給付型などの奨学金情報提供サイトを運営する「ガクシー」(東京都港区)の松原良輔最高経営責任者(CEO)に、こうした制度の現状について聞いた。

給付型奨学金の情報サイトを運営するガクシーの松原良輔CEO

 企業がCSR(企業の社会的責任)の一環で創設する奨学金など「種類も金額も増えている」と松原氏。メルカリ創業者の山田進太郎氏ら起業家が立ち上げた財団の奨学金もある。ガクシーでは返済不要の給付型奨学金の情報を集め、約1万6000種類の制度をサイトで紹介する。  しかし、こうした情報が肝心の学生に十分に届いていないという。大学の奨学金業務のデジタル化の遅れなどから、周知手段は掲示板や学生間の口コミが中心になっているためだ。

◆転居や転職がしにくくなるデメリットも

 民間による奨学金の種類は増えつつあるが、松原氏は「金銭的な側面で、日本の学生の環境は諸外国に比べ不十分」と指摘する。ガクシーでは、情報提供に加え、協賛企業や個人の寄付を集め、能登半島地震で被災した学生向けや、円安で留学資金が不足している学生向けの奨学金なども立ち上げた。「日本には寄付や遺贈のお金がまだ眠っており、こうしたお金を奨学金に流したい」と話す。  学生の返済負担を軽減するため、自治体や企業が返済の一部を肩代わりする制度もある。松原氏は経済負担の軽減とキャリア支援の「双方に有意義な制度」と評価する。だが利用するには、その地域に居住したり、一定期間会社に勤めたりしなければならないなどの条件がある。このため転居や転職がしにくくなるデメリットもあるという。(白山泉)

 JASSOの奨学金 返済の必要がない「給付型」と、返済が必要で利子のない「第一種奨学金」、利子のある「第二種奨学金」がある。第二種の原資は、返還金や機構が国から借り入れた財政融資資金など。国に原資を返済する際、機構は国に利息を支払う必要がある。このため市場金利に連動する財政融資資金の貸付利率が上がると、奨学金の金利も上昇する。
 給付型を除いた奨学金の返還者数は2022年度で483万人と増加傾向。返済が困難な人の救済策には、減額返還や返済期限猶予などがある。減額返還の承認件数は23年度で前年度比11%増の4万1829件。返済期限猶予も5%増の15万3124件となっている。



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