日銀が20日の金融政策決定会合で、政策金利の利上げを見送りました。ただ日銀の金融正常化に向けた歩みは続く見通しで、さらなる追加利上げも予測されています。「金利のある世界」で、中小企業はどう経営のかじ取りをしていけばいいのでしょうか。長年、中小企業支援に携わる立教大名誉教授の山口義行さんに聞きました。(市川千晴)

 山口義行(やまぐち・よしゆき) 1951年、名古屋市生まれ。立教大経済学部卒業。立教大経済学部教授の後に同大名誉教授。中小企業サポートネットワーク「スモールサン」を主宰、経営者向け勉強会や講演活動を行っている。著書は「社長の経済学」など多数。

高い付加価値を創造する企業に転換することが必要だと強調する立教大名誉教授の山口義行さん=東京都豊島区で

◆貸し出し金利が上がり始めた

 ―17年ぶりの利上げは、中小企業にどんな影響を及ぼしていますか。

 「日銀は3月のゼロ金利解除に続き、7月に追加利上げをしたため、中小企業向けの貸出金利が上がり始めています。これまで金融緩和策が長く続き、中小企業の貸出金利は1%を切る水準、つまり利益を1%上げれば事業経営できる『ぬるま湯』構造でした。今後はそうはいきません」  ―経営者らはどう受け止めていますか。
 「貸し出しの際の変動金利が上昇する可能性については、金融機関との契約書に記載されています。しかし、契約書を読み込んで前もってリスクに備える経営者はいまだ多くないです。借金を借り換えることになって初めて、金利上昇に気づく人がほとんどのようです。『金利のある世界』に向けた知識と意識改革が急務です」

◆「以前の常識では考えられない変化も」

 ―金利の上昇以外に課題はありますか。
 「労働人口の減少が影を落としています。人手不足で仕事を受注できず、倒産する企業が増えています。電気自動車(EV)の本格的な製造は、下請け企業との関係に大きな変化を及ぼすでしょう。技術革新で部品と工程の集約が一気に進むため、下請け企業の仕事が減れば新たな顧客を開拓する力が求められます。また仕入れ価格の上昇や人件費の負担増を補おうと売り上げの増加を追求すると、かえって利益が圧迫されるなど、以前の常識では考えられない変化も起きています」  ―中小企業はこうした変化にどう備えたらいいのでしょうか。
 「ビジネスのあり方を再定義する時代に入ったと認識すべきです。経営者だけでなく、営業担当者なども利益率や付加価値率など経営の数字を理解できる仕組みを作り全社的な意識改革を行うことで、企業価値の創造力が高まります。働く人の目線で、仕事のあり方を全面的に見直すことも必要です。経営者は、中小企業の存在意義が問われる時代だと認識する必要があります」 

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