家事代行の長時間労働の末に亡くなった女性=当時(68)=の夫(77)が、国を相手取り、過労死を認めなかった労働基準監督署の処分取り消しを求めた訴訟で、東京高裁は19日、過重業務による労災を認める逆転判決を言い渡した。家事労働者はこれまで、全ての労働者を守るはずの労働基準法の対象から外され、保護も補償も受けられなかった。「同じ労働者なのに差別するのはおかしい」。妻の無念を晴らしたいとの夫の執念は、裁判だけでなく法制度をも動かしつつある。(池尾伸一)

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24時間拘束の家事労働の末に女性死亡…「労災」認める逆転判決 東京高裁 「労働基準法の例外」問題は残る

19日、家事労働裁判の高裁判決を受け、記者会見する亡くなった女性の夫(木戸佑撮影)

◆「労働基準法の穴」が明るみに

 「勝てる確率は3%ぐらい。難しい闘いになります」。2019年末、相談に訪れた夫に指宿(いぶすき)昭一弁護士は言った。家事労働者を保護対象から外すと明記した労基法はそれほど厚い壁だった。だが夫は引き下がらなかった。妻が60歳を超え介護福祉士の資格を取り、高齢者に役立ちたいとの使命感から働いていたことを知っていたためだ。「妻が労働者でなければ何だったのか。奴隷だったのか」

家事労働者として働き急死した女性の遺影(右)と介護福祉士の免許(左)=支援団体提供

 一審は敗訴。だが二審の法廷や支援者集会で粘り強く訴えた。その闘いは労基法の大きな穴の存在を世に知らせることにもなった。

◆放置してきた政府、ようやく動く

 この例外規定は1947年の同法施行時から批判があった。当時、家事労働者の多くが住み込みで働いており、政府は家庭内に規制を及ぼすのは困難と説明。通常の労働者と同様、通いで働くようになっても問題を放置し続けた。  夫が訴えた裁判で問題があらわになったのを受け、厚生労働省は77年ぶりに例外規定を撤廃する方針を固め、近く省内研究会で最終案をとりまとめる考えだ。最近はネットの家事代行仲介サイトの普及で、家庭と直接契約するケースが増え、識者らも労働者保護策は不可欠とみる。労働法に詳しい佐々木亮弁護士は「判決も法改正に向け追い風になる」とみる。

◆「差別する規定がなくなるまで」

 夫は言う。「多くの労働者、女性を差別してきた労基法の規定は悪法。法改正まで私は闘う。妻に代わって問題を社会に発信し続ける」

 労働基準法と家事労働者 労働基準法は、労働時間の上限や残業の際の割増賃金の支払い、けが・死亡時の補償など雇い主が最低限守るべき条件を定めた法律。法律用語で「家事使用人」と呼ばれ、「家政婦(夫)」を指す家事労働者については「適用しない」と明記している。1947年の施行以来、規定は変わっていない。



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