2019年にシンガポールでNPO法人を立ち上げ、障がい者のキャリア支援で成果を上げる日本人がいる。「TomoWork」CEO(最高経営責任者)で、住友生命保険から出向中の百田牧人(ももた・まきと)さん(49)だ。これまで約300人を各企業に送り出し、就職率は約8割に上る。今月上旬には、住友生命がこのキャリア支援事業を輸入し、日本での展開を実験的に開始。日本で障がい者に働きがいのある就労を増やすにはどうすればいいのか、百田さんに課題を聞いた。(聞き手=白山泉)

◆デジタル時代に対応したスキルを身に付け

—どのような取り組みをシンガポールで行っているのですか?  「データ分析やプログラム言語によるコード作成などデジタル時代に対応したスキルを身に付けてもらいます。しかし、最も重要なのは、賃金をもらえる仕事に就き、自信を身につけてもらうことです。みんなには就労キャリアについて自分自身で考えてもらいます。その上で協力企業のプロフェッショナルが力を貸してくれているのが効果的だと考えています」

TomoWorkがシンガポールで行う障がい者のキャリア支援プログラム=2023年3月(TomoWork提供)

—何社が協力してくれているのですか?  「グーグルやマイクロソフト、ブルームバーグなど約60社の多国籍企業がパートナーとして参画し、みんなの成長を支えてくれています。これらの企業から与えられたプロジェクトに提案を行い、企業からも評価と改善点を返してもらう体験を行っています」

◆息子に障がい…就労めぐる問題を解決しようと

—百田さんがこうした活動を行うきっかけは何だったのですか?  「障がいのある息子を14年前に授かり、それから何百人という障がいのある方や親御さんと対話してきました。障がい者の就労は切実な問題です。例えば、ある聴覚障がいの子は大学の博士号を取っていてデザインにも強いが、就職しても高卒ぐらいの給与しかもらえませんでした。あるいは、自分と同じような境遇の人を助けるビジネスを行おうとしても、金融機関からの資金調達が難しいことがあります。彼らの情熱を支えるため、絶対に課題解決したいと思ったのが原動力です」

百田牧人さん(右)と息子の大樹さん(百田さん提供)

—では、日本ではどのような活動が必要だと考えていますか?  「障がい者の雇用率制度や、就労支援事業所の設置など、福祉政策としての障がい者雇用は他の国に比べて日本は充実しています。しかし、就労世代の障がい者が約300万人以上いて、その約7割が仕事に就けていないと言われています。寝たきりで働けない方もいますが、中には能力を生かして働ける方もいます。そういう人たちにチャンスを届けていきたいです」 —なぜ今、日本で取り組みを行おうとしたのですか?  「コロナ禍を経て、在宅勤務が増え、車いすの方は一定のスキルがあれば家で多くの仕事ができるようになりました。オンライン会議も一般的になり、ライブキャプション(聴覚障がい者のための文字起こし)を使うことで、聴覚障がいの人が会議から取り残されにくくなったという変化もあります。日本も試行を繰り返し、改善点を調整していくことが大事です」

◆「全般的に何でもできそうな人」を採用する慣行

—日本で障がい者雇用を拡大させる上で課題はありますか?  「日本以外の国では、デジタルなど特定のスキルに基づいて採用する『ジョブ型雇用』が多く、こうした国では障がい者が活躍できる場面が多いのです。例えば発達障がいでコミュニケーションは苦手だけど、集中力と反復性のある仕事は得意という子が活躍できます。一方、日本では、全般的に何でもできそうな人を採用する『メンバーシップ雇用』が多いため、障がいによってオールマイティーに仕事をできない人には適していません。採用にも課題があるかもしれません」  「シンガポールに拠点を置くマイクロンやブルームバーグなどの多国籍企業が、日本でも一緒にやろうと言ってくれています。ジョブ型雇用のこうした企業が日本に新しいものを持ち込んでくれるのではないかと期待しています」 

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