生命保険大手の住友生命保険が、障がい者のキャリア支援事業を始めた。同社社員がシンガポールで始めた、人材を社会に送り出す仕組みを日本に輸入。障がい者の採用に積極的なパートナー企業との協力で、より多くの人たちが活躍できる場を増やそうとしている。(白山泉)

◆就活する障がい者の不安、採用担当の悩み

 「障がい者への配慮がない就活セミナーにはどうしても抵抗感がある」。筑波技術大3年の武田晴彦さん(21)は、聴覚障がいがある。同大の石浜日菜さん(20)も「企業の(手話や文字などの)情報サポートがそれぞれの障がい者に合ったものなのか、実態がわからない」。いずれもシステムエンジニアを目指して就職活動中だが、健常者にはない不安がある。

6日、東京都中央区の住友生命本社で、手話通訳を交えて行われた学生と企業担当者との交流会=白山泉撮影

 2人は住友生命が9月上旬に行った就労支援プログラムに、聴覚障がいのあるほかの大学生4人と参加した。パソコン画面で字幕を見たり、チャット機能や手話を使ったりしながら意見を発表。プログラムに賛同したITサービスを手がけるインテックなど4社の協力企業に新規プロジェクトの提案を行ったり、企業の採用担当者との交流会に参加したりした。  企業との交流会では「障がい者にどこまで配慮すればいいのか知りたい」と悩む企業の採用担当者に対して、学生は「グループで話すときに手話だと話題に遅れてしまう不安がある。十分な時間があるとありがたい」などと提案した。

◆シンガポールでは、グーグルやマイクロソフトなど60社が協力

 住友生命にこのプログラムを提供するのは百田牧人(ももた・まきと)さん(49)。シンガポールで2019年にNPO法人「TomoWork」を立ち上げ、今は同法人に出向中だ。百田さんの14歳の息子に視覚障がいがあり、「就労は切実な問題」と話す。  百田さんは「企業は多様性や包摂性を組織に持たせることが成長の推進力になると考えるようになっている」として、グーグルやマイクロソフトなど約60社と協力して就労支援プログラムを運営する。精神面のケアや面接の準備、協力企業から受注した仕事に取り組む就労体験など3カ月のプログラムを実施する。企業にとっても、障がいのある学生らと接点が増えることはメリットだという。

◆複数の企業が協力した障がい者の就労支援は日本で初めて

6日、東京都中央区の住友生命本社で、手話を交えて企業の担当者と交流する学生(左)=白山泉撮影

 住友生命は今回、百田さんのプログラムを実験的に行った。複数の企業が協力して行う障がい者の就労支援は日本で初めてだという。今後は障がい者の採用に積極的な企業など協業先を増やしながら、多くの人が適正な給与でやりがいのある就職先を見つけられることが目標だ。  この事業を担当する新規ビジネス企画部の杉浦由唯さん(37)は「障がい者就労は多くの企業が抱える課題。今後は視覚障がいや発達障がいなどにも活動を広げ、一人ひとりがより良く生きる世界を実現したい」と話す。

 障がい者就労とIT化 厚生労働省の推計では、日本の障がい者数は人口の約9.3%の1164万人で、65歳未満が53%。民間企業で働く人は増え続けており、2023年は前年比4.6%増の64万人だった(身体障がい者36万人、知的障がい者15万人、精神障がい者13万人)。障害者職業総合センターによると、業務のIT化に伴って障がい者がデジタル関連業務に従事している一般企業は計66.6%。ソフトウエア開発やHPデザインなど判断が伴う複雑なデータ処理業務は7.2%にとどまる。



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