岸田文雄首相の任期満了に伴う自民党総裁選が12日に告示されます。新しい資本主義を掲げ誕生した岸田政権の約3年間の経済・財政政策について、関東学院大教授の島澤諭さんは、「成長と分配の好循環は起きず無為無策だった」と厳しい目を向けています。(市川千晴)

◆「家計の実質消費は低迷したまま、好循環は起こりませんでした」

 -この3年を振り返ってみて  「首相としてやりたいことをやれた『黄金の3年』のはずでしたが、無為無策でした。『分配なくして成長なし』と格差是正を重視した『新しい資本主義』を掲げましたが、すぐに『成長と分配の好循環』に変わり、賃上げに軸を移しました」

島澤諭・関東学院大教授

 「コロナ禍の収束とロシアのウクライナ侵攻でインフレとなり、海外は利上げで対処しましたが、日本は利上げできず、円安が進行しました。物価高に賃金上昇が追いつかず、ガソリン代補助など物価高対策に巨額を投じても、家計の実質消費は低迷したまま、好循環は起こりませんでした」  -新NISAが始まり投資ブームも起きました  「公的年金の給付が十分でなく老後には夫婦で2000万円が必要だとの2019年の試算『老後2000万円問題』が批判されましたが、その延長にある政策でしょう。資産運用などで自助努力を求める仕組みのひとつですが、若者は今の高齢者のための社会保険料負担と、自分の老後のための『二重の負担』に苦しんでいます」

◆「国民負担率の増加は経済成長にマイナス影響」

 -生活は潤いましたか  「投資で資産を増やした人や暴落で損をした人がいる一方で、そもそも投資する余裕のない人もいます。最近はようやくプラスになりましたが、実質賃金が26カ月連続でマイナスが続いた中、社会保険料など負担が年々増加し庶民の生活は苦しくなりました。2026年度からは少子化対策として公的医療保険料と合わせた徴収が始まります。国民負担率の増加は、経済成長にマイナス影響を及ぼすことは知られてます。出生率を向上させ、景気を支える個人消費を維持できるのか効果を見極める必要があります」  -国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)は改善しましたか  「公共事業などの政策に必要な経費を、借金をせずに税収などで賄えているかを示すPBが2025年度に黒字になる試算が出ました。インフレと円安の恩恵で、税収は4年連続過去最高となりました。インフレで名目所得と名目消費が上振れし、企業も歴史的な円安で海外で稼いだドルを円に換算すると利益が膨らみ法人税収が増えました。ただ国と地方には1200兆円を超す借金があり、財政健全化は道半ばです。自民党総裁選では補正予算を訴える候補者がいるため、2025年度のPB黒字化は怪しいかもしれません」

◆「これから金融資産を蓄える現役世代への配慮を」

 -来年度の概算要求額は過去最大の117兆6059億円にのぼります  「借金である国債の元本返済と利払い費にあてる国債費は、過去最大の28兆9116億円です。日銀の政策変更もあり、今後は国債の利払い費の増加が見込まれます。財政運営の基本理念を180度転換し、財政赤字も含めた国民負担率に上限を設けた上で、収入の範囲内に全ての支出を抑えるよう政府に求めます」  -総裁選で金融所得課税が話題になっています  「株式の売却益への強化策で、岸田氏も総裁選で掲げた後に取り下げた経緯があります。富裕層に対する課税強化でしょうが、これから金融資産を蓄える現役世代への配慮が求められます」

 島澤諭(しまさわ・まなぶ) 1970年、富山県生まれ。東京大経済学部卒、経済企画庁(現内閣府)、秋田大准教授などを経て現職。専門は財政学。



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