自民党総裁選が12日に告示される。終わりを迎えつつある岸田政権の約3年で、実質賃金がマイナスを免れたのは7カ月のみ。当初は分配政策を強調していた「新しい資本主義」は期待外れとなり、次期政権に大きな課題を残した。(石井紀代美)

9日、官邸に入る岸田首相(佐藤哲紀撮影)

 「成長と分配の好循環を実現する」。2021年10月の政権発足時、岸田文雄首相は「新しい資本主義」を掲げ、金融所得への課税強化も打ち出した。大企業のもうけが中小企業を含めた従業員の賃金増につながる「トリクルダウン」が起きていなかったことから、安倍政権の経済政策「アベノミクス」からの転換もにじませた。

◆「新しい資本主義」コケて、自己責任頼みに

 だが、新しい資本主義は早々につまずく。岸田政権発足前後に株価が急降下すると、方針を転換。池田勇人元首相になぞらえた「所得倍増」も期限を明言せず、1年もたたずに、投資という個人の自己責任に頼る「資産所得倍増プラン」に修正。貯蓄から投資をさらに促すNISA(少額投資非課税制度)の拡充につながった。  「所得再分配を進め、伸び悩む実質賃金の改善にいよいよ乗り出すのかと、当初は期待したのだが」。BNPパリバの河野龍太郎氏はこう振り返る。結局、実質賃金は今年6月にプラスに転じるまで、過去最長となる26カ月連続でマイナスが続くなど、首相の在任期間は伸び悩んだ。  賃上げに有効政策を打ち出せない半面、目立ったのが政権浮揚を狙ったバラマキ色の強い事業だ。円安に伴う物価高への対応として、ガソリン価格を抑えるための補助金を実施。一度は終了していた電気・ガスの補助も8月から再開した。増税色を打ち消すために、6月には定額減税を実施。だが、支持率の抜本的な回復にはつながらなかった。

◆自民総裁選と立民代表選、各候補の経済政策は

 大規模な財政支出の財源は借金に依存。普通国債の残高は2024年度当初予算ベースで1105兆円と、岸田政権下で100兆円ほど増えた。一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「岸田政権は『コロナ支援』から『物価高対策』に看板をすげ替え、財布のひもが緩んだままだった」と厳しい評価をする。  一方、自民党の総裁選や7日告示された立憲民主党代表選では、抜本的な賃上げにつながる経済政策が引き続き主要な論点となっている。各候補はかつての岸田首相と同様な「所得倍増」のほか、「増税ゼロ」や食料品への消費税率引き下げを掲げるなど家計負担減を前面に打ち出している。  BNPパリバの河野氏は「これほど長い間、賃上げがないのは異常だ。次期政権には賃上げしない企業には課税を強めるなどの施策が必要ではないか」と積極策を注文する。(石井紀代美) 

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