大きな被害が発生した能登半島地震(写真:高橋よしてる/アフロ)

日本では大地震があるごとに自宅の中で亡くなる人が多い。

2024年の元日に起きた能登半島地震の死者は、1月31日時点で238人、そのうち窒息・圧死が141人で63.0%を占めている。阪神淡路大震災の被害は、住家全壊約10万5000棟、半壊約14万4000棟で、死者6434人、不明3人、負傷者4万3792人以上。兵庫県医師会によると、阪神淡路大震災による死因は、窒息・圧死が約77%だと言う。自宅などに押しつぶされているケースが圧倒的に多いのだ。

全国平均を下回っていた珠洲市、輪島市の住宅耐震化率

珠洲市の住宅耐震化率は51%(2018年度)、輪島市は45%(2022年度)と全国平均の87%を下回っていた。この住宅耐震化率とは、1981年に導入された建築基準法の耐震基準に基づき、すべての住宅のうち耐震基準を満たしている住宅の割合を指す。1981年以降を新耐震、それ以前を旧耐震と言う。原則、旧耐震の建物には住宅ローンはつかない。ゆえに売却しようとしても買い手がいないので売れない。自分で住み続けるしかない。

しかし、こうした状況を容認していたわけではない。珠洲市では、最大200万円の補助金制度を設けていたが、利用は進んでいなかった。

日本の家は5361万戸(住宅・土地統計調査、2018年)存在し、持ち家は3280万戸で約6割を占める。そのうち、旧耐震と呼ばれる耐震基準が低かった1981年以前の建物は約891万戸あり、その中でも2014年以降5年間における住宅の耐震改修工事をしたものは約22万戸で2.5%に過ぎない。

2018年時点の全国の住宅耐震化率は87%で、残りの13%に相当する700万戸の耐震不足住宅が存在しているが、2030年にはおおむね解消することを国土交通省は掲げている。

この700万戸の耐震不足住宅に平均世帯人員2.3人をかけると、最大の被害人数が算出される。1600万人超えである。もちろん、一度に日本中が大地震に見舞われることはないが、それだけの災害予備軍がいることは事実である。

耐震化率とは何か

耐震化率を理解するには、旧耐震・新耐震・耐震等級の3つが必要になる。これらの定義は簡単だ。旧耐震とは、震度5程度の地震で倒壊しないレベルを指す。ちなみに、震度5弱は2008年以降で240回、震度5強は101回起きている。

新耐震でいう耐震基準は、震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れるレベルを指す。こうなると、大地震でも一瞬にして倒壊し、圧死することが避けられる。ちなみに、震度6強の地震は2011年以降、すでに15回を数える。熊本地震は4日間に4回起きている。

ここで、注意すべきは、「大規模地震でも倒壊は免れるレベル」という言い回しだ。倒壊はしないが、住み続けることを保証していない。実際、被災地では「全壊」や「半壊」は数多く発生する。阪神淡路大震災では約25万戸が全・半壊で住めなくなっている。

こうなると、家を解体し、新たな家を建てる必要がある。コストで言うと、解体費用に150万円ほどかかり、新たな丈夫な家が2000万円以上はする。既存の家の住宅ローンが残った上の追加コストとしては重すぎる。

そこで、新耐震基準を1とした場合の耐震レベルを耐震等級において3段階で分けている。耐震等級2は1.25倍、3は1.5倍となる。国土交通省は熊本地震の際に木造の建築時期別被害状況を調査し、発表している。この結果は今後の家を建てる際の指針になる。

経年劣化によってリスク増大

まず、1981年5月以前、つまり旧耐震時期の住宅は倒壊・崩壊(圧死リスクが高い)が28.2%で、大破は17.5%となり、45.7%が危険な状態となった。新耐震以降に建てられているが、築16年以上の住宅は倒壊・崩壊は8.7%、大破は9.7%となり、築15年以下は倒壊・崩壊は2.2%、大破は3.8%となり、割合は減る。

これは経年劣化によるリスクの増大を示唆している。木造なので、シロアリ被害や腐食によって新築時よりも劣化してしまったのだ。また、新耐震でも圧死リスクはゼロにはならないだけでなく、経年劣化に対する対策が必要ということだ。シロアリ対策を防蟻(ぼうぎ)、木材の腐食防止を防腐と言うが、これをしていなければ不安がつのるだけで、意味がないのだ。

しかし、耐震等級3(建築基準法の1.5倍レベル)では、サンプル16棟しかないが、軽微・小破は2棟にとどまり、無被害14棟だった。圧死リスクがゼロになり、軽微・小破は住み続けられることを意味する。

つまり、木造で家を建てるときは耐震等級3以上のレベルで建てることが日本のような地震大国では必須要件であることがわかる。高齢者の持ち家率が80%を超える日本で、これを全国民が理解して建てるのは難しいかもしれない。それなら、建築基準法の耐震レベルを1.5倍にすべきと私は思う。建築コストがやや高くなることは事実だが、その後の復興予算や追加徴税がいまだにあることから、損得勘定でも十分な理があると考える。

家には最低限求められるものが2つあると私は考えている。それは命も守り、健康を増進することだ。

この2つのために必要なのは、耐震と断熱である。断熱にも断熱等級が1から7まであり、2025年4月以降の新築着工は4以上が義務付けられる。この等級は上がるほど持病の発症率が下がり、健康的になることは証明されている。そして、冬場の寒い家でのヒートショックなどの死因を減らすことも明らかになっている。

こうしたことは、もちろんハウスメーカーや工務店は知っていなければならないし、家の耐震と断熱を重要視する会社は標準仕様においてこれを高水準に達成している。そうなると、圧死のリスクも減り、健康的に快適に過ごすことができる。

まずは行政に問い合わせてみよう

既存住宅の耐震性能の判断には耐震診断が必要となるが、木造住宅の耐震診断費用は、延床面積が120㎡ほどの木造戸建てで概ね60万〜100万円かかる。これの3分の2は補助金が出る。まずは、行政の担当部署に問い合わせてみてはいかがだろうか。

最後に、これまで書いてきたことは、持ち家に限った話である。賃貸は耐震性能も断熱性能も持ち家よりもはるかに劣る。そもそも同じ安全性の土俵にものぼっていないぐらいに考えておいてもらいたい。

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