パインバレーを創業した松谷昇一さん(左)と、引き継いだ矢嶋正明さん=16日、横浜市金沢区

セレクトショップ運営のビームス(東京都渋谷区)の元執行役員でインターネット通販(EC)やデジタル化などを担当した矢嶋正明さん(48)が横浜市金沢区にある米ハーレーダビットソンのパーツ販売店を引き継いだ。横浜銀行が出資した事業承継したい企業と経営者人材をつなぐ「サーチファンド」の成立案件の1つ。経営に関心を持つ人材を招いて企業を存続させ、地域経済を活性化させる新たな手法で、後継者不足に悩む中小企業の活路になるか注目される。

ハーレー乗りの聖地

矢嶋さんが経営にあたるのは、バイクパーツの販売や整備などを手掛ける「パインバレー」。前社長の松谷昇一さん(57)が平成20年に自分のハーレーを売った資金を元手に設立した。米国からのパーツ買い付けとネットオークション販売からスタートし、エンジンの排気音を動画投稿サイトに投稿するなどのユニークな宣伝で事業を拡大、年商9億円にまで成長した。令和2年に移転した金沢区の本社は〝ハーレー乗りの聖地〟と呼ばれて親しまれている。

松谷さんは20代のころから、60歳で引退すると決めており、事業の承継を検討していたところ、取引のあった横浜銀行がサーチファンドの利用を提案した。

サーチファンドは、企業経営者を目指す候補者(サーチャー)と経営を任せたい企業をつなぎ、資金を支援、サーチャーの経営に助言もする。一般的なM&A(合併買収)に比べ、旧経営陣が後継者を見極めることができるのが大きな利点だ。松谷さんは「経営に対する考えを話し合ったとき、共通点が多く、安心して任せられる」と笑顔をみせた。

デジタルとリアルで顧客に接する

一方、矢嶋さんは社会人人生を50年ととらえ、折り返し地点である25年を区切りに次のキャリアを模索していた。矢嶋さんは平成17年にビームスのECサイトへの出店に携わり、20年には自社サイトの立ち上げに成功。顧客データの分析など、アパレル業界のデジタル化に大きくかかわった経歴を持つ。

大企業からデジタル部門の統括を打診されるなど、ヘッドハンティングを受ける中で、デジタルとリアル店舗の双方で顧客に接するというビームスとの共通点や、自身がハーレーの愛好家だったことなどから、パインバレーを引き継ぐことを選んだ。

矢嶋さんは「世界中のパーツを集めてくるセレクトショップはこれまでの仕事と似ている。リアルとデジタルで顧客に親近感をもってもらうところに挑戦しがいがある」と話した。(高木克聡)

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