記者会見する日銀の氷見野副総裁(28日、甲府市)

日銀の氷見野良三副総裁は28日の記者会見で、「経済・物価の見通しが実現する確度が高まれば、金融緩和の度合いを調整する基本姿勢は変わらない」と強調した。23日に植田和男総裁が国会で答弁した内容を踏襲した。

日銀が甲府市で開いた金融経済懇談会で講演し、その後に記者会見した。

日銀は7月に短期金利を0.25%に引き上げると決めた。この水準について氷見野副総裁は「かなり緩和的だ」と指摘した。今後は景気を熱しも冷ましもしない中立金利まで利上げを進めることが想定される。

中立金利の水準について「私自身は何か水準やレンジを意識して考えていることはない」と述べるにとどめた。「決め打ちで予断を持つことなく、実際の経済・物価の反応を分析しながら道筋を探っていくしかない」と慎重に表現した。

会見の前に行った講演では「中立金利の推計から自動的に政策金利の終着点が出てきて、そこから逆算して政策運営を進めればよいという見方もあるようだが、そういうふうには思わない」と主張した。

中立金利の範囲を推計し、絞り込むのが難しいためだ。「幅を持った推計になり、手法によって結果が違う。機械的に考えず、道筋を描く必要がある」と語った。

日本は30年間、短期金利がほぼゼロだったことにも触れ、「その間のデータをもとに今後の経済の反応度合いを判断することには注意が必要だ」と論じた。

「経済・物価は見通しに沿った展開となることがメインシナリオだ」とも分析した。賃上げが手取りに反映されていることなどから「消費は腰折れしないという見方でいいのではないか」と唱えた。

日銀関係者は氷見野副総裁の今回の発言について「中立金利まで政策金利を引き上げていく方針は変わりないが、水準自体が不透明なため確認しつつ上げていくということを強調した」と解説する。

氷見野副総裁は乱高下した金融市場についても言及した。日銀が7月に利上げを決めたことで日米の金利差が縮小するとの見方から円安の是正が進んだ。米国で景気が減速する懸念が広がり、8月に入ってから日経平均株価が大幅に下落した。

会見では「金融資本市場は引き続き不安定な状況にある。経済・物価の見通しやリスクに及ぼす影響を見極めたい」と話した。

市場が不安定なら利上げしないのかとの問いには直接の回答を避けた。「当面はその動向を極めて高い緊張感をもって注視していく。経済・物価見通し実現の確度が高まれば緩和の度合いを調整していく」と説明した。

QUICKが8月5〜7日に外国為替市場の関係者に実施した調査で、次の日銀の利上げの時期を尋ねたところ、12月が30%、10月が20%、来年以降が46%にのぼった。市場は年内の利上げを意識し始めている。

一方、どの水準まで利上げするかという質問に対しては1.0%との回答が28%、0.5%と0.25%がいずれも26%、0.75%が15%だった。市場の見方はさまざまで、利上げの終着点が見えにくい状況が続きそうだ。

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