洋上風力発電施設=台湾中部・苗栗県

令和6年度から、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及のため電気料金に上乗せしている賦課金の負担が標準家庭で年1万円程度増える。電気料金の上昇は家計を圧迫し、企業活動にも影響を与えそうだ。特に産業用の電力需要は、人工知能(AI)の普及本格化で拡大する可能性が指摘されている。日本の電気料金は、先進国の中で中位とみられるが、資源を輸入に頼っているだけに足元の円安進行、中東情勢の緊迫化がエネルギー価格上昇につながる打撃となりやすく、警戒感が高まっている。

エネ価格「不透明さ増す」

電力中央研究所の調べによる国際比較では、2022年の日本の電気代は、英国やドイツよりは低かったが、米国や韓国、フランスよりは高かった。産業用では、米国や韓国の2倍前後。一方、再エネ普及が進んでいるデンマークの家庭用料金は日本の2倍近くだった。

資源のない日本にとって、エネルギー価格上昇のリスクは深刻だ。電力大手でつくる電気事業連合会の林欣吾会長(中部電力社長)は「今後のエネルギー価格の不透明性が、さらに増しているのは事実」と話す。そのうえで「2年前(ロシアによるウクライナ侵略開始)のような高騰があれば対応が大変だが、学んだこともある。調達先を工夫するなど、事業者は価格の乱高下を回避できる対策を講じていくと思う」と述べた。

電気料金、価格転嫁進まず

国内では人口減少が進んでいるものの、今後はAIの普及を背景に、電力需要は高まるという見通しがある。

科学技術振興機構の推計では、AIなどの情報処理を行うデータセンターの電力消費量は、平成30年の140億キロワット時に対し、令和12年には6倍以上の900億キロワット時まで拡大。現在の国内の総需要の1割近くまで伸びる計算だ。

東京商工リサーチが行ったインターネット調査(2857社回答)では、今年1月時点で本業に係るコストが前年より「増加した」と回答した企業は、73・6%と7割を超えた。特に多かったのが「原材料や燃料費、電気代の高騰」の91・2%(1920社)だ。

このうち、高騰した分を商品の価格に上乗せする価格転嫁が全額できたのは、3・6%の63社にとどまる。「受注減など取引への影響が懸念される」「同業他社が転嫁していないため」などが理由として挙げられた。

東京商工リサーチの担当者は「価格転嫁はまだ十分ではない。再エネ賦課金の値上げは、ようやく出てきた良い流れをとどめてしまう可能性がある」と指摘する。

政府は電源として再エネの比率を高める計画だが、その分賦課金の必要性も高まってくる。「再エネ普及と国民負担抑制の両立」が重い課題として残り続ける。(織田淳嗣)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。